ナイン(나인)

原題
나인
著者
チョン・ソンラン
出版日
2021年11月05日
発行元
チャンビ
ISBN
9788936438609
ページ数
428
定価
15,000ウォン
分野
YA

●本書の概略

『千個の青』(カン・バンファ訳/早川書房/2021)で、第4回韓国科学文学賞長編部門大賞を受賞したチョン・ソンランのYA(ヤングアダルト)小説。

平凡な17歳の高校生ユ・ナインは、ある日植物の声が聞こえるようになり、指の先から芽が生えてくるようになった。突然目の前に現れたスンテクという少年には、「僕と君は同じ存在で、草木の声が聞こえるのは植物だからだ」と伝えられてしまう。戸惑いながらも育ての親であるおばに確認すると、生まれた時の土まみれの写真を見せられ、自分が母から生まれたのではなく、育った芽から生まれた宇宙人であることを知る。
ナインには、両親が離婚して母親に女性の恋人がいるミレと、自身は生まれるべき存在でなかったと考えるヒョンジェという親友がいて、「どんな秘密でも話そう」と約束していた。しかし、自身の正体を明かすことはできずにいた。
その後、自分の能力を確かめるために行った山で、大昔に亡くなったクモクという少女が宿った木と出会い、2年前に起きた失踪事件の真相を知ってしまう。変わり者扱いされていた高校の先輩ウォヌは、家出したのではなく、同級生のドヒョンたちに殺されてこの山に埋められてしまっていたのだ。
事件は地元で権力を持っていたドヒョンの両親によって、すでにもみ消されていたが、ナインは秘密にしていた自身の正体を親友たちに明かし、スンテクを入れた4人で協力して犯人を捕まえるために奔走する。

●目次

プロローグ
1部 ささやく葉
2部 心臓を飲んだ木
3部 波打つ森
エピローグ

●日本でのアピールポイント

著者は、「この小説を書きながら、BoAの『Atlantis Princess』、少女時代の『Into The New World』、YooAの『Bon voyage』、IUの『Dear Name』、キム・セジョンの『SKYLINE』を聞いた。ナインの声がこの人たちのようだったらいいなと思った」とあとがきに綴っている。その言葉どおり、殺人事件を目の前にして保身に走る人々の中で、優しさと正義感を持ってまっすぐに真実を明かしていこうとするナインの姿が魅力的な作品だ。
誰にも話せない秘密を抱え、家族に悩む登場人物の人間らしい姿には思わず感情移入してしまい、「SF」というと身構えてしまう方でも、読みやすいと考える。
また「心の傷や悲しみが武器となって他の誰かが血を流すような世界にならないように」という作者の言葉にもあるとおり、傷つけあうことが多い現代で優しさとは何なのか、改めて考えさせられる1冊となっている。

(作成:德田晴子)

チョン・ソンラン 2019年、長編小説『崩れた橋』の連載でデビュー。同年、『千個の青』(カン・バンファ訳/早川書房/2021)が第4回韓国科学文学賞長編部門大賞を受賞。