●本書の概略
「2021春川韓国地域図書展」の記念図書として、韓国の地方に位置する16の小出版社を取材した本。各社の販売数や利益など詳細な数字が書かれているのも興味深いが、地方にある小さな出版社が出版だけで生計を立てて行くのは容易なことではなく、彼等がその仕事を続けている理由が単純に儲けのためだけではないのがわかる。「市場価値が弱いという理由で地域の文化資産が消滅する危機に置かれている。そこで見張り人の役割をするのが地域出版社だ」「地域は国の根であり、出版は文化の根だ」「地域の歴史や文化、記憶を残さなければ」そんな使命感でこの仕事を続けているのだ。各出版社へのインタービューの最後で必ず「地域出版で食べて行けるのか?」「地域出版を他の人にも勧めるか?」という質問があり、どの会社も大手出版社の様に利益を上げている訳ではないのにも関わらず、口を揃えて「今この仕事をしていて幸せだ」と語っている。そこからも、彼等の出版に対する使命感の強さや、充実感が伝わって来る。
●目次
江原道/京畿道/広州広域市/大邱広域市/大田広域市/釜山広域市/全羅北道/済州島/忠清北道/その他地域
●日本でのアピールポイント
『한국출판학회 2021 올해의 책(韓国出版学会2021今年の本)』に選定されたこの本は、韓国各地にある地方出版社がどのようにして生計を立てているのかを、その歴史と共に取材した内容が書かれている。小さな出版社にも関わらず良質な本を作り、賞を取ったり選定図書に選ばれたりした本の数の多さに驚く。中には日本語に翻訳された本もある。また、各社の販売数や利益を明らかにし、出版を続けるためにどうやって予算を確保しているのか、などの内情が赤裸々かつ詳細に書かれており、本を愛する人には勿論、出版社を始めたい人にも貴重な資料となるだろう。
光州にある出版社の代表は『日本の小出版』(渡辺美知子/著)に出会い出版社を設立する勇気を貰ったという。以前日本で書かれた本が韓国の小出版社に勇気を与えたように、今度は韓国の本が日本で小出版社を作ろうと思っている人々に勇気を与えるかも知れない。また、地域文化の発見、保存に興味がある人にもひとつの選択肢を示してくれるだろう。
(作成:繭羽)