●本書の概略
空の旅にまつわる歴史や事件の裏話、旅客機が安全に飛行できるしくみなどを、大韓航空の現役機長がわかりやすく語る。取り上げるテーマは、ハイジャックの背景にある人間ドラマから始まり、車輪の格納室に隠れて1万2千メートルの高さを命がけで密航した人々の話、スチュワーデスと呼ばれる女性客室乗務員が登場した事情、名機と呼ばれる旅客機の開発史、飛行機のコールサインにこめられた思い、予想もしなかった事故の背景にあったもの、パイロットが最も神経を使う機内火災の恐ろしさ、飛行機の2大製造会社ボーイングとエアバスの決定的な設計哲学の違い、飛行機が迷わず飛べるしくみを作り上げるまでの苦労話まで、空の旅に関わるさまざまな知識を取り上げている。
どれも、飛行機に乗る人ならだれもが実感できる身近な技術や物語ばかりで、読み進めるにつれて知的好奇心が大いに刺激される内容と構成になっている。
●目次
第1章 ”HI, JACK”, ハイジャック
第2章 1万2千メートル上空で生き残った人々
第3章 ザナドゥ、純粋だった時代をコールする
第4章 燃えるアルミ缶、機内火災
第5章 強さと細やかさの競争、ボーイングとエアバス
第6章 星をたどって太平洋を渡った飛行機
第7章 アマチュアとプロ、その見えない差
●日本でのアピールポイント
ライト兄弟が動力飛行に成功して以来、100年あまりの航空史におけるさまざまな事件、事故を解説した書籍は多数あるが、本書は、一般にはあまり知られていないできごとの後ろに隠れた意外な背景や裏話、だれにとっても身近な旅客機と空の旅にまつわるさまざまな知識をわかりやすく語っているので、日韓の違いなく、予備知識を持たない読者でも興味を持って読むことができる。
事件や事故の記録を淡々と語るだけでなく、また無味乾燥な技術解説ではないので、テーマごとに読み終わると心地よい満足感を得られ、豆知識を得た読者は人に話さずにはいられなくなる。日本にも航空ファンは多いので、空の旅が大好きな人を含めて本書の内容に引き込まれることは間違いない。
飛行機は、空を飛びたいという人間の壮大な夢を原点に生まれた極めて人間的なアイテムであり、すべての物語や技術に人間が深くかかわっている。わかりやすい解説、ベテラン・パイロットによる冷静な分析、人間味あふれる考察が一体となった本書は、極めて質の高い人文学書として楽しむことができる。
作成:伊賀山 直樹