●本書の概略
韓国を代表する女性小説家パク・ワンソ(朴婉緒)が1970年に発表したデビュー作『裸木』を、韓国とフランスで絵画を学んだキム・グムスクがグラフィック・ノベルとして蘇らせた。パク・ワンソの小説はこれまでもコミックや演劇の原作として再現されてきたが、『裸木』を原作とした作品はこの漫画が初めての試み。朝鮮戦争勃発後、あちこちに戦闘の傷跡を残す1951年ソウルを舞台に、つらい過去を乗り越えてたくましく生きようとする若い世代の苦悩を繊細に描く。米軍の売店、PXの肖像画売り場で働く20歳のギョンアはパク・ワンソ自身、また、ギョンアが心惹かれる妻子ある画家オク・ヒドは韓国を代表する画家パク・スグン(朴寿根)がモデルとされており、綿密な取材をベースにした再現力に定評のあるキム・グムスクの画によって当時の明洞や第8軍(在韓米軍のこと)PX内部、桂洞(ケドン)通りなどを背景に小説のキャラクターたちが生き生きと蘇った。韓国文学の隠れた傑作『裸木』を、新しい世代の読者に向けて戦争の裏側を芸術家の視点から描くという企画性が認められ、漫画映像振興院の“2019多様性マンガ制作支援事業”として出版された。
●目次
序文
プロローグ
1話 1951年
2話 オク・ヒド
3話 風景
4話 チンパンジー
5話 家族
6話 すれ違う心
7話 お金で買うことができる女性とそうでない女性
8話 赤く染まったイチョウの葉
9話 裸木
エピローグ
作家の言葉
付録
●日本でのアピールポイント
2011年に79歳で亡くなるまで数多くの小説を発表してきたパク・ワンソが39歳の時に書いたデビュー小説として有名ながら、日本では未刊行の『裸木』。グラフィック・ノベルとして読むと当時の街の風景や人々のファッションやスタイルなどの文化的背景、在韓米軍との関係などが視覚から入ってくるため、文字として小説を読むよりもよりすんなりと理解しやすくなっている。また、小説家になる前のパク・ワンソが新聞で“故パク・スグンの遺作展”の記事を見つけて初めてパク・スグンがすでに亡くなってことを知り、小説を書き出そうとするプロローグ、パク・スグン遺作展を訪れる9話、そして、オク・ヒドが描いた肖像画が70年後のシアトルで見つかるエピローグなど、原作小説をキム・グムスクがオリジナルに解釈した部分が追加され、小説をより立体的に感じることができる内容構成になっている。また、9話に登場するパク・スグンの絵はキム・グムスクが色鮮やかに再現したもので、漫画内の遺作展ギャラリーで絵画鑑賞ができる点も素晴らしい。付録として、日本統治時代に三越百貨店だった建物を米軍がPXとして利用していた頃の外観(現在の明洞・新世界百貨店)や、若かりし日のパク・ワンソ、パク・スグンの写真なども掲載されており、文化的資料としても価値がある1冊となっている。
作成:大森美紀