アーティスト・ナビ(아티스트 나비)

原題
아티스트 나비
著者
ナム・ヒヨン
出版日
2019年5月19日
発行元
パウム
ISBN
9788958831211
ページ数
272
定価
12,000ウォン
分野
小説

●本書の概略

世界初の創作しないアーティストであり、有名になることを拒絶し、自分の人生そのものが芸術であると主張するアーティストがいた。その名もナビ(驚くべきことに本名)、職業は「万能フィクサー」である。一般社会で通用する資格や学歴などのスペックは一切持たないナビだが、一般人には考えも及ばない思考回路で人々の悩みを解決する能力があった。彼はアシスタントの鉄郎とともに「なんでも解決連合事務所」を運営、書面による相談はA4用紙1枚あたり3万ウォン、チャットや面会による相談は20分5万ウォン、出張相談も着手金30万ウォンから請けおい、様々な悩みを解決していた。

ある日、事務所に「キム・ジョンヒョン事件を再調査してください」という一通の依頼メールが届く。2017年12月18日に自宅で死亡しているのが発見されたSHINee(シャイニー)のメインボーカル、ジョンヒョンの自殺事件の真相を知りたいという姉妹からの依頼だった。ジョンヒョンがラジオ番組やインタビューなどで語った過去の発言から、舞台の上でスポットライトを浴びる華やかなアイドルという姿の裏に、誰にも理解してもらえない孤独や焦り、不安を抱えていた27歳のひとりの青年の姿が浮かび上がっていくのだった……。

ジョンヒョン事件の再調査から始まり、最後には、長年連れ添った妻から離婚したいと突然告げられた老教授からの相談まで、自称アーティスト、他人から見ればルーザーともいえるナビが、ジョンヒョンを始め、X-JAPANのYOSHIKI、HIDE、Block BのZICO、BTS(防弾少年団)といったスーパースターたちが実際に語った発言や歌詞を引用しながら様々な相談に答え、悩み多き現代人に“人生で大事なものは何か?”を改めて考えさせていく。彼らの言葉に込められた意味を伝える“普通の人々に贈る賛歌”といえる新世代小説。

●日本でのアピールポイント

最近、日本でも相次いで起こっている有名芸能人たちの自殺事件。韓国でも以前から大きな社会問題とされてきたが、華やかな世界に生き、はた目には幸せそうに見えた彼らが極端な選択をせざるを得なかった理由がどこにあったのか、K-POPのスーパースター、SHINeeのジョンヒョン事件を題材に、アイドルたちの言葉に隠されていた本音、SOSを読み解いていく。

作家のナム・ヒヨンは“韓国の浅田次郎”とも称され、若者たちが普段使う略語や隠語をそのまま使用したポップで読みやすい文体が特徴。韓国のアイドル・グループとファンとの関係や、職場でのパワハラ問題、夫の実家との関係などもリアルに綴られ、現代の韓国社会が抱える様々な問題が浮き彫りになっている。

また、文中に引用されるアイドルの言葉は太字になっており、パッと目につきやすい工夫がされている。「つらいと言っている人に“お前だけがつらいんじゃない”という無意味な慰めはどうかやめてください」「言わなくてもわかるという言葉、胸にじんとくる言葉ではあるけれど、わかっていても言葉にしてほしい」など、ジョンヒョンの言葉を何度も読み返して心に刻みたい本である。

作成:大森美紀

ナム・ヒヨン
1978年生まれ。秋渓(チュゲ)芸術大学文芸創作科在学中に映画製作会社に入社し、シナリオライターとして経歴を積んだ後、2002年春に文芸誌『文学と意識』に発表した短編小説『バスに乗れ』で新人文学賞を受賞、正式に文壇デビューする。作品に、短編集『カルト童話』『純情童話』『清水の舞台から』、長編小説『万能フィクサー・ナビ』『ミッドナイトラジオ』など。