おいしい、私の人生(맛있다, 내 인생)

原題
맛있다, 내 인생
著者
シン・ジョンソン 
出版日
2011年12月12日
発行元
ウィズダムハウス
ISBN 
9788959136629
ページ数
309
価格
13,900ウォン
分野
エッセイ

●本書の概略

韓国の各界で活躍する著名人30名にインタビューを行い、「人生で思い出に残る食べ物」をまとめた一冊。著者が記者を務める大手紙「朝鮮日報」で2010年に連載した記事「私の人生の味」に新たなインタビューを加えている。著者は「私がこの本で伝えたかったのは味ではなく人生と思い出だ」「誰にでも食べながらできる思い出がある」「美味しいから幸せなのではなく、覚えているから幸せ、そんな話をしたかった。世の中のすべての思い出に漂う匂いと音を伝えたかった」と語る。

インタビューの問答形式ではなく、各界の著名人が一人称で語るように書かれているので読みやすい。写真も豊富だ。

例えば俳優のイ・スンジェは、冷麺の思い出を「冷麺が冷麺に見えず、昔のアルバムを覗いている気分になったことがあった」「冷麺の中に俳優仲間の思い出が全部入っている」と語る。

小説『母をお願い』の作家シン・ギョンスクは、幼少時に母の包丁の音で目を覚ましたという思い出を語りつつ、ケンニプ(エゴマの葉の醤油漬け)を一枚一枚はがすようにして取り分けることが、食卓のコミュニケーションに欠かせなかったと振り返る。

「自分が作った料理に自分が感動しないで、他人を感動させられるわけがない」と語るエドワード・クォンは今やスターシェフだが、高校生の頃は不良で家出を繰り返していた。そんなある日、場末の食堂で食べた、具の姿もはっきりしないスンデグクが忘れられない。「出口も進むべき道も見えなかった」が自分を振り返り、胸にこみあげてくるものがあったというのだ。スンデグクとのふとした瞬間が人生の転機となった。

韓国と言えばジャジャン麺。画家のファン・ジュリが留学先のニューヨークで孤独な日々を送っていた時に恋しかったのがジャジャン麺。やがて一軒の韓国料理店が開店した。待ち焦がれたジャジャン麺に「孤独と心細さをもかき混ぜて飲み込む時の幸せ」を感じたと語る。

この他、歌手のパティ・キム、新羅ホテルのシェフ、バレリーナ、建築家、カメラマン、映画監督、漫画家、ファッションデザイナー、実業家など各界の著名人が登場する。彼らの思い出の味、食べ物の一つ一つが魅力的であるばかりか、それぞれの道を極めた人ならでは人生観やエピソードの妙味をも味わえる。

●目次

イ・スンジェ(俳優):ビビン冷麺/シン・ギョンスク(作家):ケンニプチャンアチ/イ・スンチョル(ミュージシャン):カンジャンケジャン/エドワード・クォン(上級シェフ、レストラン経営者):スンデクッ/キム・デウ(映画監督・脚本家):寿司/ユン・デニョン(作家):サバ/パティ・キム(歌手):ムルネンミョン/ペ・ビョンウ(写真家・大学教授):ニベの蒸し煮/キム・ヒョンギョン(詩人キム・スヨンの妻):粟の重湯/ファン・ジュリ(画家・エッセイスト):ジャージャー麺/カン・スジン(バレリーナ・韓国国立バレー団 団長):ヤンニョンカルビ/パク・チャニル(料理人・エッセイスト):うどん/イ・ウォンボク(漫画家・元大学総長):トンカツ/ハ・ソンラン(作家):コングクス/イ・ジナ(演出家、プロデューサー):ナクチポックム/ぺ・ハンソン(声優):インジョルミ/ソ・サンホ(新羅ホテル総料理長):ムルフェ/イ・ジヌ(詩人):メバルの塩焼き/チン・テオク(ファッションデザイナー):チャンチグクス/ムン・フンスク(バレリーナ、バレー団経営):オムレツ/イ・ワルジョン(画家・彫刻家):ふぐのスープ/チャン・ソクチュ(詩人・作家):カボチャの塩辛スープ/チョ・テグォン(広州窯グループ会長):ホンゲタン/イ・ヒ(ヘア・アーティスト):マクフェ/スン・ヒョサン(建築家):キムチ粥/チョン・ムソン(俳優):ラーメン/チョン・クッビョル(詩人・大学教授):パッカルグクス/アン・ヒョジュ(寿司職人):ホットドッグ/キム・ユニョン(韓国伝統レストラン社長):マンドゥ/チョ・ウン(詩人・エッセイスト):焼きキビ餅/

●日本でのアピールポイント

この本を読むと「韓流」以外にも、実は様々な分野で活躍する著名人がたくさんいることがわかる。様々なジャンルで道を極めている人たちの語りに耳を傾けることで、それぞれの仕事の苦労や面白みが伝わってくると同時に、職業を通じて韓国社会の多面性を知ることができる。食を通じて語られる人生のエピソードは魅力的だ。食にまつわる思い出は誰にでもある。苦労話や家族の思い出、人生の転機や生き方など、共感できるものが多い。

また韓国の食文化への興味が深まる一冊でもある。この本のメニューは庶民的な料理を中心に30種類。人生の思い出とともに語られる食べ物はどれも美味しそうで、韓国の食の世界の奥深さと豊かさにあらためて気づかされるのも魅力だ。

作成:村山哲也

著者:シン・ジョンソン
1974年生まれ、ソウル出身、高麗大学言語学科卒。2001年「朝鮮日報」に入社、本書を執筆した2011年現在、文化部記者。