●概略
本書が描き出す世の中は、楽しくて美しいがほろ苦さもある。子供たちは閉塞感のある四角い高層マンションにいる。そこに突然獅子が現れる。この獅子は獅子舞の獅子であり、かつて大人も子供もみな楽しんだものだ。町内に「みんな、遊ぼう」という子供たちの明るい声が響いていた時代の獅子である。満月の夜に突然現れた丸い顔の獅子は子供たちを誘い出し、のびのびとした想像の世界に解き放つ。
●主な登場人物
満月
獅子
子供たち
●あらすじ
まあるく大きな月が煌々と輝く夜、高くそびえるマンションの窓から子供が一人顔を出す。すると突然子供の目の前に大きな獅子が現れる。獅子は子供を誘うように頷きかける。子供は驚きもせず、恐れもせず、獅子に飛び乗って一緒に遊び始める。獅子は豊かなたてがみを振りながら、子供を乗せて空へと躍り出る。子供は友達にも呼びかける。次々と子供達が飛び出してきて、獅子と共に飛んで跳ねて街中を駆け回る。やがて獅子と子供たちは大きな渦となって、月夜に溶け込んでいく。月がいっそう大きく近くなったようだ。ふと気づくと、獅子も友達もみんな消えていた。空には満月だけが相変わらず輝いている。
●日本でのアピールポイント
黒い大胆な線で描かれた躍動感にあふれる絵。空に浮かぶ大きな月を見ると、こんな夜は何が起きても不思議ではないと感じさせる。怖いはずの獅子は、何故か私達に馴染み深いもののように思われる。百獣の王というよりは、獅子舞の獅子や、沖縄のシーサーを思わせる風貌が、日本人の私達にも親近感を抱かせる。高層マンションの群れに閉じ込められていた子供たちの閉塞感と解放。子供たちの自由な想像力だけは誰も奪うことはできない。