『普通のノウル』(イ・ヒヨン/著 山岸由佳/訳 評論社)

シングルマザーに育てられた17 歳の少年ノウル。16 歳で自分を生み、ひとりで育ててくれた母と二人、貧しいながらも懸命に生き抜いてきた。姉弟にしか見えない親子に向けられる視線にも堂々と向き合ってきた二人を取り巻く人々には、ノウルの親友であって決して彼女ではないソンハ、学校で唯一気の置けない友人のドンウに、ノウルのバイト先である中華料理店のオーナーであるソンハの父、そしてノウルの気持ちを大きく揺さぶる母の恋人候補のソンビンはソンハの兄。

常に「普通」ではないと見られ続け、それに反発するように自分たちらしく生きてきたノウルと母。だがそこに登場した恋人候補は自分とは10歳しか違わず、しかも親友の兄。そんな状況に思わず「普通」の人であってくれればと思うノウル。「普通」であることの意味を問いかけられながら成長していくノウルの姿に胸が熱くなる一冊でした。

訳者の山岸由佳さんからメッセージを頂戴しましたので、ご紹介します。

原書を読んで夕焼けを見るのが好きになりました。ぼんやり眺めて深呼吸をするとその瞬間がとても特別なものに感じられ、「明日も頑張ろう!」と思えてくるのです。タイトルの「ノウル」は韓国語の「夕焼け」で、主人公の名前です。ノウルはアクセサリー工房を営む多忙な母に代わって家事をこなし、家計の収支を気にする大人びた高校2年生。16歳で自分を産んだ未婚の母と自分に向けられるバイアスを冷笑的なスタンスでかわして生きています。

「共感は同情とは異なるはずだ。同情が遠くから眺めることなら、共感はそばへ寄っていって相手を包み込むことだろうから。」(本文より)――翻訳しながら何度頭をガツンと殴られたような衝撃を覚えたことか。イ・ヒヨン作品が韓国の読者に愛される理由は、自分の進む道を思索する十代の姿を軽妙に描きながら、かつて十代だった大人の読者に重く大切な課題を突きつけるところにあります。社会的マイノリティに対する偏見、世の中の〈普通〉〈平凡〉という曖昧模糊な概念、エゴや慣習やコンプレックスが要因の〈アンコンシャス・バイアス〉はどこにでも誰にでもあることが、ノウルと彼を取り巻く人物たちから見えてきます。
物語は韓国のそれこそ普通の風景のなかで進みます。立ち並ぶマンション、スーパーやフライドチキン店が入居する地元の雑居ビル、そこここにあるカフェやコンビニ、中華料理店や激辛トッポッキ専門店に、ノウルが作るキムチチャーハンのレシピ……。きっと胃袋まで掴まれて(*飯テロ要注意)ノウルの暮らす町へふらりと出かけてみたくなることでしょう。K-BOOKビギナーの方には特におすすめの物語だと思います。この本との出会いが、気づかぬうちに掛けていたさまざまな色眼鏡を外し、自分軸を取り戻すきっかけになることを願っています。(山岸由佳)

『普通のノウル』(イ・ヒヨン/著 山岸由佳/訳 評論社)