『プリズム』 (ソン・ウォンピョン/著、矢島暁子/訳、祥伝社)

2020年に『アーモンド』で、そして2022年『三十の反撃』で「本屋大賞」翻訳小説部門で史上初2冠の快挙をなした作家ソン・ウォンピョンの新作邦訳は、四人の男女の揺れ動く移ろいを繊細に描いた、大人の恋の物語。初の恋愛小説です。
ソン・ウォンピョン作家の作品らしく、映像がとても鮮明に思い描けるので、まるで一遍の映画を見ているような気持ちでした。読み進めながらと時に切なく、時に甘く、大人たちが織りなす恋模様がとても繊細で美しい小説です。どんな俳優たちに演じてもらおうかと想像を膨らませながら読んでみるのもよいかもしれません。

翻訳者の矢島暁子さんからメッセージも頂戴しました。

『プリズム』は、『アーモンド』、『三十の反撃』に続くソン・ウォンピョンさんの三作目の長編小説、そして初めての恋愛小説です。
前二作も、読んでいると自然と映像が目に浮かび、音や音楽が耳に残る作品でしたが、今回の『プリズム』は、それに加えて、季節の空気の感触がみずみずしく印象的です。
登場人物たちの愛をめぐる心の動きが、著者の繊細な描写を通して季節の移ろいと静かに融合し、まるで自分が経験したことのように伝わってきます。
まぶしい日射しの下、偶然の出会いと恋の予感。
落葉舞う雨の休日、誰もいないスタジオでの初めてのキス。
別れとなったあの日、早春の陽射しと映画館のひんやりした空気……。

「大きな事件もない心の中だけで展開する物語」(作者の言葉)のはずなのに、季節の情景の中で淡々と進むこの恋愛小説に、翻訳しながらいつの間にか没入していることに気付いて、ハッとさせられました。(矢島暁子)

『プリズム』 (ソン・ウォンピョン/著、矢島暁子/訳、祥伝社)