『夏にあたしたちが食べるもの』(ソン・ジヒョン著、 金子博昭訳、クオン)

第7回「日本語で読みたい韓国の本」翻訳コンクール最優秀賞受賞作『夏にあたしたちが食べるもの』(ソン・ジヒョン著、 金子博昭訳、クオン)。三十歳を過ぎ、ミュージシャンの夢を諦めた「あたし」。ある日、育ての親であるおばから自分が経営する編み物店の店番をしてほしいと頼まれやむなく帰郷する。都会を離れ、希望もやる気も失いつつあった主人公が故郷で見つけたものは。「あたし」のユーモラスな語りが明るさとやさしさをもたらしている作品です。訳者の金子博昭さんからメッセージを頂戴しましたので、ご紹介します。

    人生に行き詰まったとき、生きづらいと思ったとき、張り詰めた心の糸を少し緩めてみると別の見方、考え方があるって気づくことはありませんか? 『夏にあたしたちが食べるもの』は、読後にそんな「緩み」を感じさせてくれる小説です。
   ミュージシャンの夢に行き詰まった主人公が故郷に戻り、そこで根を張って生きる人たちとの交流を通じて、徐々に「力を抜く感覚」を覚えていきます。そして新たな生き方に目を見開いていくという物語です。
 この小説には余分な説明がありません。人物同士の関係もちょっと謎です。ただ淡々と日常が通り過ぎ、人の内面を想像させてくれるだけ。読みながらちょっと想像の翼を広げることが、この読書をより楽しいものにしてくれるはずです。
 本作は、著者ソン・ジヒョンの初の邦訳作品です。著者はこれまで、若者や家族に焦点を当て、心の傷や不安、関係性の歪みなどを描いてきました。登場人物はそれぞれ何らかの悩みや問題を抱えているけれど、どこかユーモラスでお世辞にも「立派な人」とは言えません。著者は人生の苦い現実を描きながらも、特有の「緩み」とユーモアで読む人の心をじんわりと温めてくれます。
    生きづらさを感じているすべての皆さんに、おすすめの一冊です。(金子博昭)

『夏にあたしたちが食べるもの』(ソン・ジヒョン著、 金子博昭訳、クオン)