韓国で出版された本の邦訳版ではないのですが、ぜひお手に取っていただきたい作品があり、ご紹介します。『中国現代詩人文庫』です。1巻から5巻まであり、著者はみな中国朝鮮族の方々で、黒龍江省、吉林省、延辺朝鮮族自治州、遼寧省(瀋陽)などで活躍されています。訳者の柳春玉さんも日本に来て25年目になる在日中国朝鮮族の方で、詩人でもあります。身近な自然を愛でる詩、生活する土地での苦楽の詩、遠い先祖の地に思いを馳せる詩など、詩人たちが中国朝鮮語で紡いだ詩は主題も素材も様々です。詩をとおして暮らしや文化を垣間見ることができます。瀋陽を旅し、コリアタウンの西塔街に足を運んだこともある私は、第4巻『金昌永詩集』の連作詩「西塔」100篇を読んだときには、朝鮮独特のゆるやかな屋根を模した建物や街並みが頭に浮かび、移民としての悲哀が切々と心に沁みいりました。日本でも詩作に励んでいる柳春玉さんの訳にはリズムも余白も余韻もあり、母語ではない言語に詩を翻訳された偉業に頭が下がる思いです。柳春玉さんからメッセージを頂戴しました。
中国朝鮮族の代表詩人5人の翻訳詩集5冊を「中国現代詩人文庫」という形で、はじめて日本の読者に紹介することとなりました。「尹東柱」ゆかりの地として知られている地域の詩人たちの詩集です。
中国朝鮮族文学は中国の漢族文学とは明確に区別され、朝鮮や韓国の文学とも異なる、独特な文学として特徴づけられています。父親や祖先の故郷を忘れずにいながらも、中国の一少数民族として生きていく彼らからは、「移民」 のにおいが色濃く漂ってくるからです。そのような背景もあって、今回初めて日本語に翻訳された中国朝鲜族の詩人五人の詩集は、まずは 「中国朝鲜族の文学」でありつつも、 本質的には 「自身の個性あふれる詩集」 でもあることを忘れてはなりません。
中国は古より多民族国家として様々な民族が交代しつつ他民族をまとめ、 国を治めてきたという歴史があります。中国朝鮮族もそのような少数民族の一つで、 19世紀頃から数次にわたり中国へ移住してきました。 言葉は公用語として朝鮮語と中国語を使用しています。そのため、彼らについては、 他の世界各国で暮らしている韓民族とも全く異なるイメージが持たれています。
ここで、中国朝鮮族を代表する詩人5人を紹介します。
第1巻 『韓永男詩集』韓永男詩人は、中国朝鮮族庶民詩人の代表であり、運命抗争詩人の代表でもあります。
第2巻 『全京業詩集』全京業詩人は、バイリンガル創作を特徴とする、中国朝鮮族「口語詩」の代表詩人です。
第3巻 「金学泉詩集」金学泉詩人は、バイリンガルな特徴を持ちながら、いわゆる漢詩に通じた中国語の創作が主流の中国国家一級作家です。
第4巻 「金昌永詩集」金昌永詩人は、「奉天」と呼ばれた瀋陽の「西塔」を連作の形にして朝鮮族の移住史と開拓史を書き下ろしている、中国朝鮮族テーマ詩の代表です。
第5巻 「趙光明詩集」趙光明詩人は、仏心で善の行脚を提示している、中国朝鮮族詩壇のモダニストの第一人者とも呼ばれる詩人です。(柳春玉)
『中国現代詩人文庫』1巻から5巻(韓永男、全京業ほか3名/著、柳春玉ほか/訳、川中子義勝ほか2名/監修、土曜美術社出版販売)