『月まで行こう』(チャン・リュジン/著、バーチ美和/訳、光文社)

『仕事の喜びと哀しみ』(牧野美加訳、クオン)でチャンビ新人小説賞を受賞したチャン・リュジンの初の長編小説『月まで行こう』(バーチ美和訳、光文社)。韓国では刊行翌日に4刷となるなど大きな反響を呼びました。若者の日常を彼らと同じ目線で丁寧にユーモラスに描くことに定評のある著者が、本作では仮想通貨をキーワードにして、悩みを抱えながらも格差社会でたくましく生きていく若者の姿を魅力的に描いています。訳者のバーチ美和さんからメッセージをいただきましたのでご紹介します。

『月まで行こう』は、短編集『仕事の喜びと哀しみ』(牧野美加訳、クオン)で韓国の若者たちの姿を生き生きと描き話題を集めた作家チャン・リュジンによる初の長編小説です。主人公であるウンサン、タヘ、チソンは、製菓会社に中途採用で入社した女性たちで、実家を頼ることもできず、未来も見えない似た者同士として親しくなっていきます。そんな彼女たちは、ウンサンが「うちらみたいな若者の前にほんの一瞬だけ開かれる、唯一のチャンス」だと言う暗号通貨に未来を託します。その後のストーリーは、学歴社会であり男女格差の大きい韓国社会のなかを、「急落」と「急騰」を繰り返す暗号通貨と共にジェットコースターのように突き進んでいきます。彼女たちの母親世代にはできなかった女性の生き方を実現していく三人の物語は、シスターフッド小説という一面も持っています。IT企業で働いた経験があるチャン・リュジンが「砂糖漬けのように甘く感じられるストーリーを書きたかった」と語る本作のエンディングがはたしてどう描かれているのか、お楽しみいただければ幸いです。ちなみにタイトルは、暗号通貨の価格が月まで行きそうな勢いで急騰するのを期待する俗語「To the Moon」から来ています。作品中には月にちなんだ単語がところどころに登場しますので、こちらもどうぞお楽しみください。(バーチ美和)

◆『月まで行こう』刊行記念イベント◆
「翻訳のこと、作家チャン・リュジンのこと」3/29(水) 19時~/ CHEKCCORI(会場+オンライン) / 登壇者:バーチ 美和
詳細・申込⇒https://chekccori230329.peatix.com/

『月まで行こう』(チャン・リュジン/著、バーチ美和/訳、光文社)