『希望ではなく欲望――閉じ込められていた世界を飛び出す』(キム・ウォニョン/著 牧野美加/訳 クオン)

韓国で出版されるや、様々なメディアで取り上げられ話題となった作品がいよいよ日本に上陸しました。骨形成不全症という難病を抱えながらも弁護士・作家・パフォーマーとして活動するキム・ウォニョンさんの作品3冊、『希望ではなく欲望 閉じ込められていた世界を飛び出す』(牧野美加訳、クオン)、『サイボーグになる――テクノロジーと障害、わたしたちの不完全さについて』( キム・チョヨプとの共著、牧野美加訳、岩波書店)、『だれも私たちに「失格の烙印」を押すことはできない』(五十嵐真希訳、小学館、12月刊行予定)です。いずれも人生観を揺さぶられる作品ですが、まずは、最初の著作である自伝的エッセイ『希望ではなく欲望 閉じ込められていた世界を飛び出す』をご紹介します。訳者の牧野美加さんからメッセージを頂戴しました。

本書は、弁護士・作家・パフォーマーとして活動する1982年生まれのキム・ウォニョンさんが20代で書いたエッセイの改訂版です。ウォニョンさんは、生まれつき骨が折れやすい骨形成不全症という難病を患っています。幼少時から骨折と入退院を繰り返し、歩けないため小学校に入学できず、15歳で入った特別支援学校の中等部で初めて公教育を受けます。その後、一般の高校、ソウル大学、ロースクールを経て弁護士の資格を取り、国家人権委員会で働きはじめます。
本書は単なる成功談を描いたものではありません。村の友人たちが学校に通う様子をただ見ているしかなかったころの焦りや憤り。特別支援学校に入ったものの、身体障害や発達障害のある生徒たちを自分と同等の仲間として受け入れられない気持ち。一般高校への進学を試みるも、施設が整っていないからと学校側から拒絶されたときの挫折感。「世界の中心」だと思っていたソウル大学に入ったのに、階段や段差のせいで一人では講義室にも入れない現実。障害者のアイデンティティーを受け入れようと悪戦苦闘していたころの心の葛藤。そのときどきの経験や感情がありのままに、客観的な視線で綴られています。
大学時代の仲間が医師や裁判官など社会的に認められた職業について活動する一方で、特別支援学校時代の仲間は家や施設の中だけで過ごしています。ウォニョンさんはそのはざまで、両者の世界を絶えず行き来しながら生きてきました。その率直な語りは説得力があり、読む人にストレートに届きます。障害者の置かれている状況や障害者運動の歴史も知ることができます。対立や分断の時代と言われる今、他者への関心や共感、連帯の大切さをあらためて感じさせてくれる一冊です。(牧野美加)

インタビュー:「作家、キム・ウォニョン――書き、踊り、欲望せよ」

『希望ではなく欲望』試し読みサイト👉

『希望ではなく欲望――閉じ込められていた世界を飛び出す』(キム・ウォニョン/著 牧野美加/訳 クオン)