『道一つ越えたら崖っぷち』(ポムナル/著 古橋 綾/訳 李美淑 /監修 北原 みのり/解説 アジュマ)

貧困や家庭内暴力、家族間の性差別など様々な理由により性売買を経験せざるを得なかった当事者が、自らの20年にわたる実体験を綴った『道一つ越えたら崖っぷち』(ポムナル/著 古橋 綾/訳 李美淑 /監修 北原 みのり/解説 アジュマ)。韓国で出版されるやいなや大反響を起こしました。本書で高く評価された著者のポムナルさんは、2021年「今年のジェンダー平等文化賞・ジェンダー平等文化支援賞個人部門」を受賞し、数多くのメディアで話題になりました。著者はつらい過去のすべてを振り返り、性売買・性搾取の地獄を克明に綴っています。本書で語られている地獄は、韓国だけではなく日本にも存在するものであり、社会問題と言えるものです。訳者の古橋綾さんからメッセージを頂戴しましたので、ご紹介します。

本書は20年以上の間、性売買を経験した女性の手記です。一つの暴力が次の暴力へとつながり、そこから逃れられなくなる様子がこれでもかと描かれます。筆者が選択しえた道はほとんどなく、暴力的な日常から救ってくれる人も、傷に寄り添ってくれる人もいませんでした。やっとのことで出会った支援団体の助けで、自分の意思を尊重してくれる人たちと過ごす日常を送りながら、長い時間をかけて自分を取り戻していきます。
ページをめくってもめくっても終わらない暴力的な日常の描写を辿りながら、出口のないトンネルに一緒に入ってしまったかのように感じられる方もおられるかもしれません。現実に右往左往する少女に手を差し伸べたくなるかもしれません。私は、翻訳を進めながら、これがフィクションであってほしいと何度も思いました。
本書で描かれているような状況は日本にもあります。家庭や学校や職場で困難を抱えさせられた女性たちをうまく絡めとり金儲けの道具とする斡旋者たち、自身の暴力行為を金で正当化する性を買う人たち、そして、女性たちの自由意志というあたかもリベラルっぽい論理でこの状況を見ようとしない傍観者たちが、他者の身体を使って金儲けをする広大な市場を支えています。筆者が強調するように暴力を暴力だと言うことは、この堅牢な搾取のネットワークに一石を投じることになるでしょう。
被害を被害だと、暴力を暴力だと思えない・言えない人たちに、ぜひ届いて欲しい一冊です。(古橋綾)

『道一つ越えたら崖っぷち』(ポムナル/著 古橋 綾/訳 李美淑 /監修 北原 みのり/解説 アジュマ)