『最善の人生』 (イム・ソルア/著 古川綾子/訳 光文社)

「最善の人生」を望みながら、最善を尽くせば尽くすほど「最悪」の道を歩むことになってしまう少女3人の物語、『最善の人生』 (イム・ソルア/著 古川綾子/訳 光文社)をご紹介します。学歴社会、競争社会が非常に厳しいことで有名な韓国。住む場所、通う学校がヒエラルキーを表すなかで、大人に反抗し、団結し、壊れ、そして孤独感を高めていく少女たちの日々を、著者は韓国社会の問題点をあぶり出しつつ繊細に描きました。本作は、「ほかの作品とは別次元の小説だった」という評価を受けて「第4回文学トンネ大学小説賞」を受賞した作品です。また、元Girl’s Day ミナ主演で映画化にもなり、「第25回釜山(プサン)国際映画祭」でKTH賞、CGK&サムヤンXEEN賞を受賞して2冠を達成しました。訳者の古川綾子さんにメッセージを頂戴しましたので、ご紹介します。

日本で初紹介となるイム・ソルアは2013年に詩人としてデビューしました。その後、長編『最善の人生』、詩集『奇怪な天気と優しい人びと』、短編「蠅のお世話」で、それぞれ名だたる文学賞を受賞。長編小説、短編小説、詩と幅広い分野で活躍を見せている注目の作家のひとりです。
歌手のIUも絶賛したという本書に登場するのは3人の中学生です。成績の良い学校に偽装転入させられた主人公のカンイ、リーダー格でモデルになりたいソヨン、ちょっとだらしないけど心の優しいアラム。ともに家出するほど仲良しだった3人の関係は、いじめや暴力、搾取などによって少しずつ歪み出し、やがて取り返しのつかない方向へと暴走をはじめます。
「出来損ないにはなりたくない」と願っていたカンイたちに何が起こったのか。「最善の人生」とは果たして何なのか。著者の自伝的小説からは熾烈な競争や格差に喘ぐ韓国社会の現実が見えてきます。コスメやグルメ、K-POPみたいにキラキラしていない負の部分と言えるかもしれませんが、こうしたリアルな姿もぜひ知っていただけたらと願っています。(古川綾子)

『最善の人生』 (イム・ソルア/著 古川綾子/訳 光文社)