『BTSを哲学する』(チャ・ミンジュ/著、桑畑優香/訳、かんき出版)

第64回グラミー賞の授賞式が4月4日(日本時間)に開催されます。「Butter」で「最優秀ポップ・パフォーマンス(グループ)」にノミネートされているBTSがパフォーマンスアーティストに選ばれました。どんな舞台になるのか、世界中が注目しています。なぜ彼らはこのように世界中の人々から愛されているのでしょうか。それは、BTSの音楽には常に力強いメッセージと哲学が込められているから。彼らの哲学をわかりやすく解説したのが『BTSを哲学する』(チャ・ミンジュ/著、桑畑優香/訳、かんき出版)です。ニーチェからヘーゲル、ハイデッガーなどに至るまで、さまざまな哲学者の思想とBTSの音楽、パフォーマンス、ミュージックビデオなどに込められたメッセージをひも解いています。訳者の桑畑優香さんからメッセージをいただきましたので、ご紹介します。

『BTSを哲学する』の原書を手に取ったのは、2017年のことです。同年5月にBTSが米ビルボード・ミュージックアワードでトップ・ソーシャル・アーティスト賞を受賞した時に、Twitter上に溢れたさまざまな文字で書かれた世界中のファンたちの祝福・喜びの声。「中東や東欧など、文化や宗教も異なる国の人たちが、なぜ…?」と不思議に思い、韓国のネット書店で見つけたのがこの本でした。当時、BTSを人文学的な視点から読み解いた書物は、一冊だけ。BTS研究書の先がけです。

著者のチャ・ミンジュさんは、2016年10月、一人旅に出たときに電車で聴いたBTSのアルバム『WINGS』に胸を打たれて号泣。そして、当時「アイドル」といわれていたBTSの「アーティスト」としての魅力を伝えたい一心で、本書を書きはじめたといいます。

引用されている哲学者は、ニーチェ、ヘーゲル、ハイデッガー、ドゥルーズなど。記されているアルバムは、2013年のデビューシングルから2017年の『LOVE YOURSELF 承 ‘HER’』までです。初期の曲にあらためて耳を傾け翻訳しながら驚いたのは、この本がその後、大ブレークし世界的トップスターに駆け上がるBTSの本質を突いた預言書であるということでした。たとえば、2018年にRMが国連総会のスピーチで語った「自分を愛すること」。著者は、いち早くそのキーワードを心に留め、ニーチェの言葉をひいて曲に込められた哲学を読み解いています。また、「絶望と癒し」についての解説は、コロナ禍でリリースした『Dynamite』や『Life Goes On』などに重なります。

痛みを希望に変えるBTSのメッセージは、普遍的だからこそ、さまざまな人の心に響いているのかもしれません。まさに、哲学者たちの言葉が、数百年を経ても国境や宗教を超えて人々の心に響くように。BTSの曲を聴きながら本書のページをめぐり、深遠なる哲学の世界の扉を開いてみませんか。(桑畑優香)

『BTSを哲学する』(チャ・ミンジュ/著、桑畑優香/訳、かんき出版)