『僕だって、大丈夫じゃない』(キム・シヨン/著 岡崎暢子/訳 キネマ旬報社)

キネマ旬報社から2冊同時発売された韓国エッセイ邦訳版のひとつ、『僕だって、大丈夫じゃない~それでも互いに生かし生かされる、僕とあなたの平凡な日々~』(キム・シヨン/著 岡崎暢子/訳)をご紹介します。緊急度合いが優先されるER(救急救命室)から先着順で患者を診る小さな診療所に移ってきた医師キム・シヨンさんによるエッセイです。柿を山ほど届けてくれるお婆さんや、茹でたてのトウモロコシを持ってきてくれるお婆さん、家族の愚痴を語るお爺さんなどなど、著者と患者さんのやり取りがとても微笑ましい。容体が急変した患者や心停止した患者を元に戻すことだけが医師の仕事ではない、ほかにも人を助けるやり方があり、それによって自分も生かされていると気づく過程がとてもあたたかいです。情にあふれたハートフルエッセイが心をたくさん癒やしてくれるでしょう。訳者の岡崎暢子さんから次のようなメッセージを頂戴しました。

 

本書『僕だって、大丈夫じゃない~それでも互いに生かし生かされる、僕とあなたの平凡な日々~』(原著タイトル『괜찮아, 안 죽어』<大丈夫、死なないから>)は、韓国の片田舎で開業医を営む40代の医師キム・シヨンさんによるエッセイ本です。
 この本の原著と私の出会いは、たしか一昨年、ソウル光化門の教保文庫でした。何気なく手に取って読み始めたらグイグイ引き込まれて、あたたかくも飾らないエピソードに立ち読みしながら泣いていました(本、買いました)。

 一刻一秒を争うERで緊迫していた医師生活を送っていた著者が、縁あって片田舎の小さな開業医となってからの日々か綴られています。
 診療所を訪れるのは家で寝ていれば治るような鼻風邪を引いたお婆さんや制服姿の中高生など、およそ緊迫感とは無縁の人たち。あまりに気が抜けてしまった著者は、無気力になり体調を崩し、患者たちにも悪態をつく始末。しかし、著者のそんな様子にも構わず不器用な愛情をぶつけてくる患者のお婆さんたちに、著者自身も次第に心を溶かされていきます。

 それはこの本に収載された短編のエッセイの数々からかすかに感じ取れるものであり、ひとつひとつの物語は起承転結がきちんとあるようなものでもありません(この本が、医療従事者たちのエッセイ登竜門「ハンミ随筆文学賞」の大賞受賞作品ということもあります。キム・シヨンさんの本当のデビュー作なので…)。
 また、読めばわかりやすく何かを学べるような本じゃないのですが、のんびり読めて、ちょっぴり泣けたり、ほんの少し胸が温かくなる本です。
 お忙しいとは存じますが、お目通しいただけたら幸いです。(岡崎暢子)

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『僕だって、大丈夫じゃない~それでも互いに生かし生かされる、僕とあなたの平凡な日々~』(キム・シヨン/著 岡崎暢子/訳)