『きみは知らない』(チョン・イヒョン/著 橋本智保/訳 新泉社)

『マイ スウィート ソウル』(清水由希子/訳、講談社)『優しい暴力の時代』(斎藤真理子/訳、河出書房新社)で日本でも人気を博しているチョン・イヒョンさんの長篇小説『きみは知らない』(橋本智保/訳 新泉社)。韓国では2009年に出版され、今でもよく読まれているロングセラー作品です。「死体が発見されたのは五月最後の日曜日だった」とミステリー小説のように物語は始まり、少女ユジの失踪を軸に、分かり合えない家族それぞれの孤独を緻密に語ります。さらには、「都市の記録者」と評されるチョン・イヒョンさんらしく、富裕層の住む江南、在韓華僑の多い仁川、韓国を飛び出し、台北、延吉など、様々な地を舞台として、現代社会に横たわるいくつもの問題点を鋭い考察で描き出していきます。その問題点は韓国にだけあるものではなく、日本にも共通に存在するものです。作家の温又柔 さんがTwitterで、「韓国ではなく日本でも台湾でも中国のでもなく、東アジア文学としか呼びようのない小説を読んでいるのだと感激してる」「こういう小説をずっとずっと読みたかった」と絶賛された作品でもあります(温さんに掲載のご許可をいただきました)。訳者の橋本智保さんからメッセージを頂戴しましたので、ご紹介します。

『きみは知らない』は、おそらく在韓華僑を主人公にした初めての小説です(2009年当時)。刊行後すぐにベストセラー入りしましたが、書評や読者の感想を見るかぎり、在韓華僑の存在は思いのほか注目されなかったような気がします。「華僑出身のオギョンは」とか「台湾人のミンは」という言い方はちらほら見られましたが。

この作品は資本主義社会で崩壊した「家族」を背景に、「江南(カンナム)」「ソウル」に暮らす「韓国人」だけでなく、もっと複雑な地理的なつながりを見せているように思います。(橋本智保)

『きみは知らない』(チョン・イヒョン/著 橋本智保/訳 新泉社)