『囚人 黄晳暎自伝Ⅰ、Ⅱ』(黄晳暎著 舘野晳・中野宣子訳 明石書店)

『1945,鉄原』(イ ヒョン 著 梁玉順訳 影書房)、『舎弟たちの世界史』(イ・ギホ著 小西直子訳 新泉社)や『少年が来る』(ハン・ガン著 井手俊作訳 クオン)などの小説で韓国の現代史を深く知った人も多いかと思います。
『囚人 黄晳暎自伝Ⅰ、Ⅱ』(黄晳暎著 舘野晳・中野宣子訳 明石書店)は、こうした作品で扱われている激動の韓国を生きてきた著者の人生の記録です。様々な職に就きながらこの時代を生き抜き、労働運動や民主化運動に身をささげ、幾度も獄中を経験した黄晳暎。本書は彼の人生の記録にとどまらず、同じ時代を生きてきた一般の人々の記録でもあり、歴史の記録でもあると言えます。
第Ⅰ巻を訳された中野宣子さんからメッセージを頂戴しましたのでご紹介します。

分断されて「時間」が閉じ込められ、「言語表現」が閉じ込められ、「冷戦」体制でがんじがらめになった韓国(朝鮮半島)の中で生きながら、その「監獄」からの自由を求めて時代の抑圧と闘い、権力によって「囚人」にさせられた、韓国現代文学の大家と言われる黄晳暎の自伝。その黄晳暎が体験してきた韓国の歴史の一場面や、彼が出会った平凡な人びとの生の物語、それに獄中での出来事が、変化に富んだ言葉遣いで鮮やかに描かれている。これは、自伝の枠を超え、個人の歴史を飛び越える一時代の文学的証言なのである。
監獄と感じる社会で生き、自由を求めて闘ってきた著者の痛みを思うとき、日本/日本人がなすべき事は何なのか、あらためて考えさせられる書と言えよう。(中野宣子)

 

『囚人 黄晳暎自伝Ⅰ、Ⅱ』(黄晳暎著 舘野晳・中野宣子訳 明石書店)