教保文庫、7月の月間ベストと注目の新刊(韓国小説)

教保文庫の2024年7月の月間ベスト10と注目の新刊情報(韓国小説)をご紹介します。韓国でシリーズ累計110万部を突破した『달러구트 꿈 백화점』(邦訳版『夢を売る百貨店』鈴木沙織訳、文響社、2022)の著者イ・ミイェの新作小説が5位にランクインしました。また、キム・エラン、キム・ヨンスなど人気作家5名によるアンソロジー『음악소설집(音楽小説集)』や、キム・スムの『오키나와 스파이(沖縄スパイ)』など新作が次々に刊行されて、注目を集めています。

1位:『모순(矛盾)』(ハードカバー)梁貴子(ヤン・グィジャ)著(スダ/2013.4.1)
2位:『구의 증명(クの証明)』チェ・ジニョン著(ウネンナム/2023.4.26)
3位:『홍학의 자리(紅鶴の場所)』チョン・ヘヨン著(エリクシル/2021.7.26)
4位:『나의 돈키호테(私のドンキホーテ)』キム・ホヨン著(ナムヨプウィジャ/2024.4.25)
5位:『탕비실(給湯室)』イ・ミイェ著(ハンキ/2024.7.10)
6位:『불편한 편의점(不便なコンビニ)』(桜エディション)キム・ホヨン著(ナムヨプウィジャ/2021.4.20)
7位:『두 사람의 인터내셔널(2人のインターナショナル)』キム・ギテ著(文学トンネ/2024.5.15)
8位:『채식주의자(菜食主義者)』ハン・ガン著(チャンビ/2022.3.28)
9位:『회색 인간(灰色人間)』キム・ドンシク(ヨダ/2017.12.27)
退屈しのぎでインターネットの掲示板に投稿していたショートショートが注目を浴び、書籍化されると瞬く間にベストセラーになったキム・ドンシク作品集(全10巻)の第1巻で、本作には24編のショートショートが収められています。シリーズ第2巻『世界で一番弱い妖怪』は邦訳版が刊行されており、日本語で読むことができます(吉川凪訳/小学館/2021)。
10位:『주의 기원(種の起源)』チョン・ユジョン著(ウネンナム/2016.5.16)

注目の新刊は以下のとおりです。
『음악소설집(音楽小説集)』キム・エラン、キム・ヨンス、ユン・ソンヒ、ウン・ヒギョン、ピョン・ヘヨン(プランツ/2024.7.1)
音楽専門の出版社が企画・出版した音楽がテーマのアンソロジー。著者は、韓国を代表する作家であり、邦訳作品も多くある5名の作家たち。「今回の企画を受けた理由は何か」「最初に何か音楽が思い浮かんだか。小説を書いている間、その音楽がずっと頭の中にあったか」など共通の質問や創作秘話などについて語るインタビューが巻末にある。

『오키나와 스파이(沖縄スパイ)』キム・スム著(モヨサ/2024.7.8)
『ひとり』(岡裕美訳、三一書房、2018年)、『Lの運動靴』(中野宣子訳、アストラハウス、2022年)、『さすらう地』(岡裕美訳、新泉社、2022年)が邦訳刊行されているキム・スムの新作小説。太平洋戦争中に沖縄で実際に発生し犠牲者の中には朝鮮人一家も含まれていた、久米島守備隊住民虐殺事件を題材にした長編小説です。

『탕비실(給湯室)』イ・ミイェ著(ハンキ/2024.7.10)
7日間の合宿リアリティーショー『給湯室』。ここに集められたのは、同じ職場の人から「一緒に給湯室を使いたくない人」に挙げられた人たち。共用の製氷皿にコーラ氷やコーヒー氷を作る人、新作のインスタントコーヒーが追加されればごっそり持ち帰る人、電子レンジのコードを引き抜き自分のスマホを充電する人……。「誰が一番嫌いですか?」で始まるこの物語は、給湯室という小さな空間を背景に様々な人間模様と人間の心理を「ショー」というエンターテイメントを通して俯瞰するハイパーリアリズム小説です。

『2인조(2人組)』チョン・ヘヨン(エリクシル/2024.7.26)
今月3位にランクインしている『홍학의 자리(紅鶴の場所)』の著者、チョン・ヘヨンの新作です。刑務所で同じ監房になった自称詐欺師と自称大泥棒。意気投合した二人が交わした約束は、出所したら2人で大金を手にすることだった。刊行作品がドラマ化されるなど今韓国で人気を集めている著者がユーモラスなタッチで描いた、大どんでん返しの犯罪ミステリーです。(文/高上由賀)