「秋の読書文化祭り」、宝水洞本屋通りで開催(韓国通信)

“読書の秋”にちなんだイベント「第13回 秋の読書文化祭り」が9月24、25日、釜山市中区の「宝水洞(ポスドン)本屋通り」で開かれました。主催は釜山市と市教育庁。新型コロナウイルスの影響で一昨年と昨年はオンラインで開かれ、対面での開催は3年ぶりです。
宝水洞本屋通りは、1945年の敗戦後、日本人が引き揚げの際に残していった本を空き地で売ったのが始まりと言われています。50年に朝鮮戦争が勃発すると、釜山に多くの避難民が押し寄せます。なかでも宝水洞周辺には臨時首都庁舎や大統領官邸、戦火を逃れ一時的に移転してきた各地の大学、学校の青空教室などが設けられ、多くの知識人や学生が集まっていました。戦時下で出版が難しく本が手に入りにくいなか、一方では、生活のために蔵書を売る人々もいました。需要と供給がマッチして古本を売る露店や小屋が徐々に増え、現在のような本屋通りが形成されました。

 

 

 

 

 

 

 

その後、ベビーブーマーが学生になると参考書や教科書の需要が急増し、70~80年代には古本屋は約70店にまで増加。一帯は活況を呈します。しかし2000年代からは衰退の一途をたどっています。インターネット書店や大型中古書店の登場、収益の低下、経営者の高齢化、後継者不足、店の賃料の値上げなどにより廃業を余儀なくされるケースも少なくなく、現在運営しているのは30店弱です。
そのような存続の危機を踏まえ、今回の「秋の読書文化祭り」では「宝水洞本屋通りの活性化戦略」をテーマに開幕特別フォーラムが開かれました。登壇者は、東京・神保町で韓国関連書籍の出版社「クオン」とブックカフェ「チェッコリ」を運営するキム・スンボク代表、釜山大学建築学科教授で韓国都市再生学会の会長を務めるウ・シングさん、中央洞でブックカフェ「百年魚書院」を運営し釜山作家会議の会長でもある詩人のキム・スウさんの3人。「宝水洞本屋通り繁栄会」の会長で自身も本屋通りで書店を運営するイ・ミナさんが座長を務めました。


キム・スンボク代表は神保町の事例を画像とともに紹介しました。神保町は多いときで170店、現在は130店ほどの書店が軒を連ね、100年以上になる店も多いという歴史あるエリア。毎年秋には、100万冊もの古本が店先に並ぶ「神田古本まつり」や、多くの書店や飲食店がブース出店する「神保町ブックフェスティバル」も開かれ、大勢の人でにぎわいます。クオンは2007年の設立以降、韓国の本の邦訳本など約100冊の本を刊行し、チェッコリではそれらに加え、約3,500冊の韓国の原書も販売しています。本の出版、販売だけでなく、トークイベントや読書会など多様なイベントも年間100回ほど開催しておりそれが収益増につながっているという話や、神保町の古書組合の活動など、宝水洞本屋通りの活性化のヒントになりそうな具体例を紹介しました。


続いてウ・シング教授は、本屋通りの成り立ちから現状、今後の課題などを発表しました。現在は旧都心と呼ばれる宝水洞一帯はかつて釜山の中心部で、半径2km内に街が集約されていたといいます。そのため本屋通りは市民にとって気軽に足を運べる身近な存在でしたが、その後釜山の開発が進み、街が拡張するにつれて「遠い存在」になってしまったとのこと。また、ウ教授が本屋通りの訪問客を対象に聞き取り調査をしたところ、初めての訪問という人が7割で、うち7割は観光目的、平均滞在時間は20分、性別・年代別では20代女性が多数でした。さらに訪問客の動線を調べると、本屋通りには、国際市場やチャガルチ市場など周辺の主要観光地を回ったあと、他エリアに移動する前に「最後にちょっと立ち寄った」というパターンが見えてきました。一方、書籍購入目的で訪れたのは50代男性が多く、平均滞在時間は37分でした。このように、近くに人気観光地があるにもかかわらず本屋通りに人が来ない、来ても写真を撮って終わり、という現状についてウ教授は、本屋通りの路地が狭く、ときおりオートバイも通行するなど、ゆったり散策しづらいことを要因の一つに挙げます。また、廃業した店の跡には新たにブックカフェができたりもしていますが、通りの入口ではすでにオフィステルの建築工事が始まっているなど、今後、本屋通りとしてのアイデンティが保てなくなることも懸念されます。ウ教授は建築学の観点から、本屋通りが全体の雰囲気をある程度統一したうえで、各書店がそれぞれの個性を打ち出すことを提案します。また、予算などの公的支援と、本屋通り自体の努力の二つが、同じ目標に向かって同時になされることが大事だと強調しました。


中学時代よく通っていた宝水洞エリアに愛着があるというキム・スウさんは、「都市が記憶を失くすと認知症になってしまう。宝水洞にはいつまでも老けずに25~26歳くらいの状態でいてほしい」と述べました。本屋通りが記憶を失くさないためには、詩専門の店、児童書専門の店、動物関連の本を扱う店など、小さくてもいいからさまざまなテーマに特化した書店が必要だ、という考えです。
最後に4人が意見を交わすコーナーでは「場所性」についての話が出ました。ある場所に存在する店や物は変わっても、そこの「場所性」自体はあまり変わらない、それが場所の記憶になっていく、記憶には人(読者)が大事だ、とのこと。宝水洞本屋通りが単なるフォトスポットではなく実質的な「本の町」として長く存続し、記憶を積み重ねていくことを、筆者も釜山市民の一人として願います。
秋の読書文化祭りでは、この開幕特別フォーラムを皮切りに、市民MD(商品企画者)が実際に本屋通りで選んで購入した書籍の展示販売会や、しおりや韓紙ノート、本の香水を作る体験イベント、作家を招いてのブックトーク、人形劇など、さまざまなイベントがありました。また10月28~30日には、同じく3年ぶりの開催となる「宝水洞本屋通り文化祭り」も予定されています。(文・写真/牧野美加)