絵本専門出版社그림책공작소(絵本工作所)の展示会(韓国通信)

ソウルにある絵本専門出版社「그림책공작소(絵本工作所)」(Instagramはこちら)の展示会が、釜山の児童書店「책과 아이들(本と子どもたち)」5階のギャラリーで11月1日から12月31日まで開かれています。絵本やアートプリントを実際に配置する作業は、絵本工作所のミン・チャンギ代表が釜山まで足を運んでみずからおこなったそうです。
フロアの中央に絵本工作所がこれまでに出版した絵本約36点が展示され、カーペットの上に座ってじっくり楽しめるようになっています。大人も子どもも熱心に見入っていました。

 

 

 

 

 

 

 

周囲の壁には絵本のアートプリントが多数展示されています。ミンさんが大学生のときに出合って以来「人生の詩」として大事にしているという「雨ニモマケズ」の韓国語版絵本『비에도 지지 않고』もありました。宮沢賢治が最初にこの詩を手帳に書き留めたのが1931年11月3日であることにちなんで、2015年11月3日に刊行されています。もとになっているのは、アメリカ出身で日本在住の詩人、翻訳家のアーサー・ビナードさんによる英訳と山村浩二さんの絵による『雨ニモマケズ Rain Won’t』(今人舎)です。英訳版には英訳文がページ中央に、日本語原文がページ下部に表示されていますが、ミンさんは韓国語版にこの英訳文を残すかどうかで日本側と何度もメールをやり取りして交渉したそうです。結果、ページ下部に韓国語訳を表示し、巻末に日本語原文と英訳文を掲載するという形で折り合いがついたそうです。現在までにすでに6刷となっています。


バレリーナを夢見る少女を描いた『춤을 출 거예요(踊りを踊るのよ)』は鮮やかな黄色の表紙とは対照的に中は白黒ですが、ダイナミックな躍動感の感じられる、音楽や喝采まで聞こえてきそうな絵本です。世界的に活躍したバレリーナで、韓国の国立バレエ団団長を務めるカン・スジンさんが推薦の言葉を寄せたそうです。ミンさんいわく「『有名バレリーナの推薦する絵本』と表紙にでかでかと書けば宣伝にはなるだろうが、それでは作品の世界を壊してしまうと考えて裏表紙に小さく表示するにとどめた」とのこと。ミンさんの絵本づくりの哲学がうかがえるエピソードです。

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしたちの周りには実にさまざまな木がありそれぞれに個性があること、人間も同様にみんなそれぞれ光り輝く存在であることを教えてくれる『다 같은 나무인 줄 알았어(どれも同じ木だと思ってた)』の展示にも工夫が感じられました。向こうがほのかに透けて見える、木々の絵のプリントされた生地がのれんのように吊るされています。のれんをくぐるとそこにもアートプリントが並んでいて、まるで木々のあいだを縫って森に分け入っていくような感覚が味わえます。

 

 

 

 

 

 

 

絵本工作所で一番売れているという『나의 엄마』は間もなく10刷の予定だそうです。韓国では絵本の販売部数は1,000~2,000部が一般的ですが、これは2万部を記録しているそうです。登場する言葉は「엄마(オンマ)」一語のみ。一人の女性が誕生し成長していく過程で、そのときどきに母親に「オンマ」と呼びかけるさまざまな場面を描いています。やがて年老いた母親が亡くなり女性は離別に心を傷めますが、今度はその女性の幼い子どもが女性に「オンマ」と呼びかける、という場面で終わります。帯にも仕掛けがあります。普通は表表紙から裏表紙にかけて横方向に巻かれていますが、この絵本の帯は縦に(表表紙に)巻いてあります。帯を外すと、女性が手をつないでいた母親の場所に女性の幼い子どもが現れ、オンマと呼んでいた立場からオンマと呼ばれる立場に変わったことが表されています。日本語版『ママ』(永岡書店:特設サイトがとても素敵です。)をはじめ各国語で翻訳出版されています。
この展示は12月31日まで無料で観覧できます。観覧時間は日曜と月曜を除く9時から19時までです。(文・写真/牧野美加)

 

『비에도 지지 않고』

『雨ニモマケズ Rain Won’t』

『춤을 출 거예요』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『다 같은 나무인 줄 알았어』

『나의 엄마』