教保文庫、5月の月間ベストと注目の新刊(韓国通信)

教保文庫の5月の月間ベスト10(国内小説)と注目の新刊をご紹介します。「韓国のスティーブン・キング」との異名を持つチョン・ユジョンの新作が刊行され、既刊作も再び注目を集めています。

1位:『달러구트 꿈 백화점(ダラグート 夢の百貨店)』(50万部記念ドリームエディション)イ・ミイェ著(ファクトリーナイン/2020.7.8)
2位:『제12회 젊은작가상 수상작품집(第12回若い作家賞受賞作品集)』チョン・ハヨンほか著(文学トンネ/2021.4.7)
3位:『아몬드(アーモンド)』ソン・ウォンピョン著(チャンビ/2017.3.31)
4位:『달까지 가자(月まで行こう)』チャン・リュジン著(チャンビ/2021.4.15)
『仕事の喜びと哀しみ』(牧野美加訳/クオン)でチャンビ新人小説賞を受賞したチャン・リュジンの初の長編小説。20代の女性会社員3人が仮想通貨で一攫千金を狙う物語。前作同様、格差や差別、不条理に耐えながらたくましく生きる若者の姿がリアルに描かれている。
5位:『종의 기원(種の起源)』チョン・ユジョン著(ウネンナム/2016.5.16)
心と記憶の謎、母子の関係を探求するサイコ・スリラー。邦訳本(カン・バンファ訳/ハヤカワ書房)も刊行されています。
6位:『우리가 빛의 속도로 갈 수 없다면(私たちが光の速度で進めないなら)』キム・チョヨプ著(ホブル/2019.6.24)
7位:『7년의 밤(七年の夜)』チョン・ユジョン著(ウネンナム/2016.5.30)
韓国で50万部を超える傑作ミステリー。邦訳本(カン・バンファ訳/書肆侃侃房)も刊行されています。
8位:『모순(矛盾)』梁貴子(ヤン・グィジャ)著(スダ/2013.4.1)
9位:『아버지에게 갔었어(父のところに行ってきた)』シン・ギョンスク著(チャンビ/2021.3.5)
10位:『시선으로부터,(シソンから、)』チョン・セラン著(文学トンネ/2020.6.5)

注目の新刊は以下の通りです。

『완전한 행복(完全な幸福)』チョン・ユジョン著(ウネンナム/2021.6.10)
自己愛に陶酔したナルシシストが幸せを追い求めて他人の人生を踏みにじる話で、500ページを超える大作です。5月下旬に著者がバラエティ番組に出演したことから、発売前から大きな話題となっていました。著者はこの小説の取材のためシベリア横断列車に乗ってバイカル湖まで行ったそうです。

『눈으로 만든 사람(雪でつくった人)』チェ・ウンミ著(文学トンネ/2021.6.11)
2017年若い作家賞を受賞した表題作や2021年現代文学賞受賞作「여기 우리 마주(ここ わたしたち 向かい合って)」など全9編からなる小説集です。女性の登場人物が家族との関係で経験することや、家族以外の人物と結ぶ特別な関係に焦点を当てています。長編『第九の波』(橋本智保訳/書肆侃侃房)は邦訳本も出版されています。

『지구인만큼 지구를 사랑할 순 없어(地球人ほど地球を愛することはできない)』チョン・セラン著(ウィズダムハウス/2021.6.10)
多数の邦訳本があり、日本でも人気のチョン・セランの初エッセイ。旅行嫌いで知られる著者が、友人に会いに、イベントに当選して、彼氏の留学についていき、などの理由でニューヨーク、アーヘン、大阪、台北、ロンドンを訪ねたときの旅行記が9年という歳月を経て一冊の本になりました。最新の邦訳本『声をあげます』(斎藤真理子訳/亜紀書房)が間もなく刊行予定です。

『기억하는 소설(記憶する小説)』(チャンビ/2021.5.21)
カン・ヨンスク、キム・スム、イム・ソンスン、チェ・ウニョン、チョ・ヘジン、カン・ファギル、パク・ミンギュ、チェ・ジニョンの8人の短編を収録したアンソロジー。「災害の時代を生きるわたしたちへ」という副題がついているように、ハリケーンの直撃や口蹄疫の流行、三豊百貨店の崩壊、セウォル号沈没事故、産業災害、汚染物質の拡散、気候変化、隕石の衝突など、いずれも災害をテーマとしています。

『봄을 기다리는 날들(春を待つ日々)』アン・ジェグ著、アン・ソヨン編(チャンビ/2021.5.14)
民主化運動に加わり1979年に投獄された数学者で統一運動家の故・安在求(アン・ジェグ)が獄中で家族と交わした手紙をまとめた書簡集です。彼の次女で作家のアン・ソヨンが、10年弱でやり取りした約640通の手紙の中から130通ほどを選んで収録しました。

『우리는 페퍼로니에서 왔어(わたしたちはペパロニから来た)』キム・グミ著(チャンビ/2021.5.10)
4作目となる短編集。表題作は「ひとつの時代の情熱や愛、挫折、そして挫折による成長を証言し、確認する美しい小説そのもの」と評価され2020年金裕貞文学賞大賞を受賞しました。ほかに2019年金裕貞文学賞優秀賞と2020年李孝石文学賞優秀作品賞を受賞した「마지막 이기성(最後のイ・ギソン)」、2019年金裕貞文学賞受賞候補作に選ばれた「기괴의 탄생(奇怪の誕生)」など全7編を収録しています。

『부서진 여름(壊れた夏)』イ・ジョンミョン著(ウネンナム/2021.5.5)
ある夏、ハワード邸に住んでいた女子高生が謎の死を遂げる。容疑者と目されたのはハワード邸の管理人と、被害者と同じ学校に通っていた管理人の二人の息子。嘘や誤解がいかに人の人生に入り込み幸せな家庭を壊していくかを、三人の男女のねじれた運命を通して描き出す長編小説です。
著者の邦訳本に『風の絵師』(米津篤八訳/早川書房)、『景福宮の秘密コード』(原題『根の深い木』/裵淵弘訳/河出書房新社)、『星をかすめる風』(鴨良子訳/論創社)があり、『風の絵師』と『根の深い木』はドラマ化され日本でも放送されました。(文/牧野美加)