教保文庫、6月の月間ベストと注目の新刊(韓国通信)

教保文庫の6月の月間ベストセラー(国内小説)と新刊をご紹介します。6月上旬~中旬に出たチョン・セランの『시선으로부터,(シソンから、)』と、金薫(キム・フン)の『달 너머로 달리는 말(月の向こうへ駆ける馬)』が早速、上位にランクインしています。新刊では特にキム・ヨンスの8年ぶりになる長編小説が大きな注目を集めています。ハ・ワンの新作エッセイも出ました。

1位:『제11회 젊은작가상 수상작품집(第11回若い作家賞受賞作品集)』(文学トンネ/2020.4.8)

2位:『아몬드(アーモンド)』ソン・ウォンピョン著(チャンビ/2017.3.31)

3位:『시선으로부터,(シソンから、)』チョン・セラン著(文学トンネ/2020.6.5)

4位:『달 너머로 달리는 말(月の向こうへ駆ける馬)』金薫(キム・フン)著(パラムブック/2020.6.15)

有史以前の2つの架空の国「草」と「旦」の戦いを背景とした長編小説です。著者の代表作である歴史小説『칼의 노래(邦題:孤将)』(蓮池薫訳/新潮社)と『흑산(黒山)』(戸田郁子/クオン)は邦訳されています。

5位:『소년이 온다(少年が来る)』(特別限定版)ハン・ガン著(チャンビ/2020.4.24)

6位:『철도원 삼대(鉄道員三代)』黄晳暎(ファン・ソギョン)著(チャンビ/2020.6.5)

7位:『우리가 빛의 속도로 갈 수 없다면(私たちが光の速度で行けないならば)』キム・チョヨプ著(ホブル/2019.6.24)

8位:『룬의 아이들 데모닉. 1(ルーンの子供たち DEMONIC 1)』(ハードカバー)ジョン・ミンヒ著(エリクシール/2020.6.12)

オンラインゲーム「テイルズウィーバー」の原作小説である『ルーンの子供たち』シリーズ3部作。韓国で総売上160万部を突破したミリオンセラーです。第1部「冬の剣」に続き、今回は第2部の「DEMONIC」がハードカバーで出版されました。これらは邦訳されています(酒井君二訳/宙出版)。

9位:『모순(矛盾)』(ハードカバー)梁貴子(ヤン・グィジャ)著(スダ/2013.4.1)

1998年の初版以降、132刷を記録するロングセラー。市場で商売をして必死で生計を立てる母と、裕福な生活を送りつつもそんな母が羨ましかったという遺書を残し自殺してしまう伯母(母の双子)の姿を通して、矛盾に満ちた人生を見つめる20代女性の物語。本作は2013年にハードカバーで刊行された改訂版です。著作のうち『ウォンミドンの人々』(崔真碩訳/新幹社)と『ソウル・スケッチブック』(中野宣子訳/木犀社)は邦訳されています。

10位:『체리새우: 비밀글입니다(シナヌマエビ:非公開文です)』ファン・ヨンミ著(文学トンネ/2019.1.28)

新刊では、キム・ヨンスの長編『일곱 해의 마지막(七年の末)』(文学トンネ/2020.7.1)が大きな注目を集めています。8年ぶりの長編小説で、詩人の白石(ペク・ソク/1912~96)をモデルにしています。朝鮮戦争後、ロシア語の翻訳家として北朝鮮で暮らしていた白夔行(ペクキヘン 白石の本名)が、再び詩を書き始め1962年に絶筆するまでの7年間を描いています。

ペク・スリンの『여름의 빌라(夏のヴィラ)』(文学トンネ/2020.7.7)は、文知文学賞を受賞した表題作をはじめ「아직 집에는 가지 않을래요(まだ家には帰りません)」(現代文学賞)や「고요한 사건(静かな事件)」「시간의 궤적(時間の軌跡)」(どちらも若い作家賞)といった受賞作4篇を含む計8篇を収めた小説集です。

소설 보다:여름 2020(小説 ポダ:夏2020)』(文学と知性社/2020.6.17)は同社が年4回「この季節の小説」を選定し刊行するシリーズです。夏号にはカン・ファギル、ソ・イジェ、イム・ソラの3作品と、3人と選定委員とのインタビューも収められています。

カン・ファギルの小説集『화이트 호스(ホワイトホース)』(文学トンネ/2020.6.12)は、今年の「若い作家賞」大賞受賞作「음복(飲福)」や表題作など計7篇を収録しています。

梁貴子が1990年に発表した初の長編『희망(希望)』の改訂版(スダ/2020.6.30)も出ました。大学受験を三浪中の、ソウルの古びた旅館の息子ウヨンの目で、急激に変化する時代の葛藤や矛盾を描いています。

韓国のエッセイが日本でも続々と翻訳出版されていますが、新刊も次々と出ています。人間関係や日々の生活に疲れた人を慰めたり、自分らしく生きようと提案したりする内容のものが多いようです。

가만히 있어도 괜찮다 말해주길(じっとしていても大丈夫と言ってあげられますように)』ナム・グンウォン著(モモブックス/2020.6.17)

「不安と心配を抱えて生きるあなたに贈る心の処方箋」というサブタイトルがついています。

만남은 지겹고 이별은 지쳤다(出会いはうんざりで別れは疲れた)』セックァチェ著(トオルム/2020.6.23)

著者がフェイスブックで発信するメッセージは大きな共感を集め、フォロワーは55万人に上ります。自分は愛される資格がないと思う、手放したくない大切な縁を手放してしまい後悔する、自分のことは顧みず相手のために自分を犠牲にしてしまう、そんな自分が嫌になるが変わるのは難しい、という人におすすめのエッセイだそうです。

저는 측면이 좀 더 낫습니다만(私は横顔がもっといいのですが)』ハ・ワン著(セミコロン/2020.7.7)

邦訳本(岡崎暢子訳/ダイヤモンド社)も大好評の『あやうく一生懸命生きるところだった』の著者の新作エッセイ。「人生は“真っ向勝負”ではない! “側面突破”だ!」というコピーが印象的です。前作同様、著者のイラストも満載です。(文/牧野美加)