本の「顔」と対面する書店(韓国通信)

 釜山市東部の機張郡は近年、開発が進み、脚光を浴びているエリアです。海沿いの「オシリア観光団地」内には複合リゾート施設「アナンティコーブ」やアウトレット、国立水産科学院などがすでにオープンし、今年5月にはテーマパークも着工しました。そのアナンティコーブに入店している異色の大型書店「Eternal Journey(エターナルジャーニー)」をご紹介します。主にリゾートの宿泊客向けにつくられた施設の一つですが、宿泊客でなくても自由に利用できます。
 一番の特徴は、すべての本を表紙が見えるように面陳列または平積みにして、ゆったりと配置していることです。美術館のように静かで落ち着いた雰囲気のなか、本の「顔」ともいえる表紙と対面しながらじっくりと見てまわることができます。約500坪の売り場に並ぶ本は約2万冊。単純に比較はできませんが、三省堂書店神保町本店は1,000坪の売り場に140万冊もの書籍が並んでいるそうですから、それと比べるといかにゆとりを持って並べられているかがわかります。

1026面陳の書架1026店内1

 

 

 

 

 

 

 一般的な大型書店はベストセラーや新刊がよく目立つように並べられていますが、エターナルジャーニーではそうした本の割合が比較的少ないのも特徴です。キュレーターが選んだ本を、法と正義、恋愛、フェミニズム、猫、孤独、人生の大学といった独自の55のテーマ、キーワード別にまとめてあります。各出版社おすすめの本を集めたコーナーや児童書、釜山に関する本のコーナーもありました。訪れた人が書架をゆっくり見てまわりつつ関心を引く本に出会えるようにと意図された陳列です。そのため書籍検索機や案内デスクはありません。
文学トンネ、チャンビ、民音社、文学と知性社といった出版社の詩選、詩人選を集めた書架は色とりどりの表紙が非常に美しく、目を引きました。「表紙の美術館」コーナーにも芸術性あふれる美しい表紙の本が並び、まるで絵画を鑑賞しているような気分になります。

1026文学と知性社 詩人選

1026文学トンネ 詩人選

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おすすめの作家」の作品を並べた書架には、『世界の果て、彼女』(呉永雅訳/クオン)や『ワンダーボーイ』(きむ ふな訳/クオン)、『夜は歌う』(橋本智保訳/新泉社 今年12月に刊行予定)の著者キム・ヨンスが来店時に書き残したメッセージも展示されていました。

1026キムヨンスのサインとメッセージ

ブックトークや子ども向けのワークショップなどの催しもあり、なかでも「深夜の書店」というイベント(有料)は非常にユニークです。夜9時から翌朝5時まで特別営業される店内で2時間のトークショーに耳を傾け、その後は朝まで、併設のカフェなどで各自が自由に読書を楽しむというものです。作家やピアニスト、心理学者などさまざまな分野の人物がトークショーのゲストになっています。『原州通信』(清水知佐子訳/クオン)や『誰にでも親切な教会のお兄さんカン・ミノ』(斎藤真理子訳/亜紀書房 来年1月刊行予定)の著者イ・ギホさんも登壇したことがあるそうです。18歳以上であれば誰でも参加でき(事前申込が必要)、飲み物と軽食が提供されます。会社員の一般的な勤務時間は朝9時から夕方5時までですが、これは夜間の8時間。非日常的なシチュエーションで本の中の世界にどっぷりと浸るのもおもしろそうです。東海岸沿いに位置するため、初夏から夏にかけてはイベント終了後まもなく水平線から昇る太陽が見られるというおまけつきです。(文・写真/牧野美加)

Eternal Journey(エターナルジャーニー)
アナンティコーブ内 ヒルトン釜山 地下2階
営業時間:10~21時(金土日祝は9時から)
電話番号:051-604-7222