ソウル市が運営する古本屋「チェッポゴ」(韓国通信)

 ソウル市が運営する古本屋「책보고(チェッポゴ)」が3月下旬、市南東部の松坡区にオープンしました。「清渓川古本屋通り」にある古本屋25軒の本を市が委託販売するもので、こうした取り組みは全国初だそうです。販売している古本は現在、約10万冊。市は今後も本を新たに仕入れ、規模を拡大していく方針です。

 巨大コンテナのような独特の外観の店舗は、以前、倉庫として使われていた建物です。「本の虫」をイメージしたという店内のつくりも独特で、アーチ型の書架が連なる様子は本のトンネルのようでもあります。古書や希少本、絶版本をはじめ、小説、人文、芸術、辞書、児童書、漫画などさまざまなジャンルの本が並び、書架には各書店の名前と簡単な特徴も記されています。約20年前から運営しているという「清渓川書店」の棚には、昭和30年に初版が発行されたという『大漢和辞典』(諸橋轍次著)が並んでいました。当時の定価は1冊17,000円で、ここでの販売価格は10,000ウォンです。他の書架でも、小説や実用書など日本の本をちらほら見かけました。店内を見て回るだけでも楽しめますが、目当ての本がある場合、検索機で簡単に在庫が調べられます。本は閲覧用テーブルやブックカフェ(飲み物の販売は5月からの予定)で閲覧できます。閲覧後、購入しない場合はもとの位置に戻しましょう。購入後の返品や交換はできません。

190410外観

 

 

 

 

 

 

 寄贈図書コーナーもあります。社会学者のハン・サンジンさん(ソウル大学名誉教授)とシム・ヨンヒさん(漢陽大学碩座教授)夫妻が、自分たちの知識を市民と共有し社会に還元しようと寄贈した約1万冊の蔵書で、閲覧用です。

 独立出版物の閲覧コーナーには雑誌やエッセイ、小説、漫画など多様なジャンルの約2千冊が展示されています。出版が不定期で数が限定されていることの多い独立出版物に触れられる、貴重な場です。今後、3千冊に増やす予定です。

 月替りのテーマで図書を展示する「ブックキュレーション」コーナーには、4月のテーマ「古本」に関する16冊が紹介されていました。

 

 その展示とは別に、オープン記念特別展も4月30日まで開かれています。絶版となった昔の雑誌や1920~30年代に朝鮮総督府が発行した教科書、1950~90年代の教科書などが展示されていて、会期終了後は販売される予定です。

190410ブックキュレーション

190410教科書 1950~90年代

 

 

 

 

 

 

 

 奥にはステージつきの空間もあり、今後、ブックコンサートや作家のトークショー、出版ワークショップなどさまざまなプログラムが開かれる予定です。

 清渓川古本屋通りは1950年代、現在の東大門市場あたりにできた古本屋が始まりです。当時、近くにソウル大学があったため、朝鮮戦争(1950~53)の影響で供給が滞った学生用の本を売買するようになり、古本屋は徐々に増加。62年に3階建ての平和市場ができるとその1階にこぞって移転し、現在の古本屋通りが形成されました。最盛期の70年代には約120軒にまで増え、訪れる人の数も一日平均2万~3万人に上ったと言います。しかし、80年代後半から、参考書の需要減やコピー機の登場、大型書店の出現などにより客足は減少。90年代以降のインターネット書店の出現がさらなる打撃となり、古本屋は20~30軒にまで減少しました。

  そうした状況の中で誕生したのが公営の「チェッポゴ」です。多くの集客が期待でき、本の委託手数料が市中の大型中古書店より低く設定されているので、古本屋の経営にプラスとなります。ひいては、衰退の一途をたどる古本屋通りの保存にもつながるでしょう。客側にも、多数の古本屋の商品を効率よく見ることができ、寄贈図書や各種展示、文化プログラムも楽しめるというメリットがあります。チェッポゴは単に古本を販売する空間ではなく、まさに「本(チェッ)の宝庫(ポゴ)」だと感じました。(文・写真/牧野美加)

営業時間:10:30~20:30(土日祝は10:00~21:00)

休館日:毎週月曜日、1月1日、旧暦の正月・盆の連休

最寄り駅:地下鉄2号線 蚕室ナル駅1番出口すぐ

HP:http://www.seoulbookbogo.kr(韓国語)