ブックキュレーターおすすめの絵本5選(韓国通信)

 以前、ご紹介した児童書専門書店「책과 아이들(本と子どもたち)」(釜山市)のブックキュレーターであるカン・ジョンア共同代表に、お薦めの絵本を紹介してもらいました。カンさんは1997年に書店を立ち上げ、ご主人のキム・ヨンスさんと共に児童書一筋で歩んでこられました。「何度も読み返しているうちに良さがわかってくる本もあるけれど、今回ご紹介するのは最初に触れたときから強くひかれた本」だそうです。以下、「 」内はカンさんのお薦めポイントです。

 

달밤(月夜)』イ・ヘリ作、ポリム出版社、2013

満月の夜、高層マンションが立ち並ぶ街に、毛むくじゃらでギョロリとした目の獅子が現れます。子どもたちは部屋の窓から夜空へ飛び出し、獅子と共にぐんぐん高く舞い上がります。子どもたちの楽しげな声が聞こえてきそうな躍動感あふれる絵です。「特にこれといったストーリーや深い意図はないけれど、絵だけで十分楽しめる本。子どもが自由に想像して楽しく遊べます。構図は大胆ですが、絵のタッチはとても繊細です」

本書については「日本語で読みたい韓国の本」のコーナーでもご紹介しています。

달밤1

 

 

 

 

 

 

 

달려(走れ)』イ・ヘリ作、ポリム出版社、2009

同じくイ・ヘリさんの作品です。トラやライオン、クジャクなどの動物が退屈そうにしている場面から始まります。ライオンの「退屈だ…」というつぶやきを聞いた恐竜が「退屈? 走れ!」と言うと、動物たちは一斉に走り出し、どんどん速度を増していきます。白黒のシンプルな絵ですが、動物の駆けるスピードや勢いが感じられます。「『月夜』と同じく、特別なストーリーがあるわけではないけれど、テンポがよく、ぐいぐい引き込まれる本です」

달려2

 

 

 

 

 

 

 

쨍아(トンボ)』イ・グァンイク絵、チョン・ジョンチョル文、チャンビ、2008

1925年、当時14歳の少年だった詩人チョン・ジョンチョルが創作した同名の童謡を絵本にしたもので、쨍아(チェンア)はトンボを表す方言です。花々が咲く野原で一匹のトンボが死んでいます。アリたちがトンボのお葬式をするために集まってきて、やがてトンボは色とりどりの小さな丸に分解され、温かな秋の日差しへと変わっていきます。生と死や、命の循環といった自然の摂理がうまく表現されています。ぬくもりのある絵は、消しゴムや大根、じゃがいもなどで作ったスタンプを押して描いたそうです。「詩を絵にするという作業は、詩の持つ余韻や余地を減らしてしまう可能性をはらんでいます。でもこの絵本は詩を最大限に活かして、視覚的に上手に表現してあると思います」

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토끼 탈출(うさぎの脱出)』イ・ホベク作、チェミマジュ、2006

2003年の米ニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞に選ばれた著者の前作『도대체 그 동안 무슨 일이 일어났을까?』(邦訳『うさぎのおるすばん』黒田福美訳 平凡社)に登場したうさぎが生んだ子うさぎイェッピが主人公です。ある家で飼われているイェッピは箱から逃げ出して洗面台の石けんをかじります。逃げ出せないように頑丈なオリに入れられても、鍵をかけられても、そのたびに脱出して部屋で絵を描いたり編み物をしたり。「広い世界に出て自由に過ごすべき子どもたちを窮屈なところに閉じ込めてしまっている私たちの現実と、すぐに逃げ出そうとするウサギの性質をうまく表現しています。絵も素晴らしいです」

토끼 탈출2

 

 

 

 

 

 

 

빅 피쉬(ビッグフィッシュ)』イ・ギフン作、ビリョンソ、2014

文字のない、絵だけの絵本です。昔、ひどい干ばつに苦しむ村がありました。雨乞いをしても効果がないので村人は、壁画に描かれた、水を吐き出すという伝説の魚を捕まえに行くことにします。苦労して捕まえた巨大な魚を村に連れかえって独り占めしようとする人間と、それに反対する動物たちが対峙します。結局、村人は強引に魚をオリに閉じ込め、これで水不足も解消されると安心して眠りますが、夜中に魚が大量の水を吐き出して大洪水になります。気配を察知した動物たちはいち早く巨大な船に乗り込んでいたので無事ですが、果たして人間は―。「カット数が非常に多く、一つひとつの絵がとても緻密に描かれています。絵だけで人間や動物の心理を見事に表現しています。しっかりしたテーマのある絵本です」。2010年ボローニャ国際児童図書展「今年のイラストレーター」、2013年ブラティスラヴァ世界絵本原画展「子ども審査委員賞」受賞作です。

빅 피쉬2

 

 

 

 

 

 

 

(文/写真 牧野美加)

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