翻訳者と作家が語る韓国文学(韓国通信)

 日本、中国、ベトナムの翻訳者計7人と人気の若手作家キム・エランさんが、韓国文学や翻訳について語り合うイベントが10月12日、ソウル市に隣接する富川市で開かれました。富川市と韓国文学翻訳院による主催です。

 第1部では、英国のマン・ブッカー賞を受賞したハン・ガンさんの連作小説集『채식주의자』(菜食主義者)の翻訳者3人が登壇。中国語の千日さん、日本語のきむ ふなさん、ベトナム語のHoang Hai Vanさんが、この作品を翻訳しながら感じたことなどを発表しました。

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 きむ ふなさんは、冬ソナを機に日本で韓流ブームが起こった2004年当時、韓国文学が映画やドラマほどには注目を集めなかったのは、日韓双方の出版業界の知識や情報、市場分析力の不足に一因があると見ています。2000年代初めまで、日本で韓国文学と言えば、歴史や社会問題などをテーマとした暗く、重い作品というイメージがありましたが、近年、邦訳されている作品はそうしたイメージを覆すものが多く、読者も徐々に増えてきているといいます。その火付け役となったのが、出版社「CUON」が2011年に始めた企画「新しい韓国の文学シリーズ」です。2000年以降に発表された小説や詩集を中心に刊行している同シリーズの第1弾が、まさに『菜食主義者』でした。きむ ふなさんはその他、普段、翻訳する際に苦心している点や翻訳者を目指す人へのアドバイスなども紹介されました。

 続いて、『菜食主義者』の一部を翻訳者3人と韓国人1人の計4人が、それぞれの言語で順に朗読しました。中国語とベトナム語はまったく分かりませんが、スクリーンに原文が映し出されるので、だいたい今このあたりを読んでいるのかなと想像しながら聞くことができ、面白かったです。さまざまな旋律の音楽を聴いている気分になりました。

 第2部では、詩人チョン・ホスンさんの童話『항아리』(ハンアリ)を訳した中国の金明順さん(右)とベトナムのNguyen Ngoc Queさんが登壇。金明順さんは作品に対する熱い思いを、Nguyen Ngoc Queさんは作品を翻訳するうえで難しかった点ややりがいなどを語りました。発表の後は同じく、韓国語も含む3カ国語での朗読が披露されました。

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 第3部は、キム・エランさんの短編集『달려라, 아비』(走れ、オヤジ殿)を訳した中国の許先哲さんと日本の古川綾子さんが登壇。許さんは漫画家でもあり、中国と日本で同時発売された作品もあるそうです。朗読の時間にはキム・エランさんご本人も登壇され、自ら韓国語で朗読。同じ部分を許さんと古川さんが中国語と日本語で朗読しました。作品のどの部分を朗読するかはキム・エランさんが決めたそうで、この部分は욕(ヨク)と呼ばれる相手を罵倒する言葉と、美しい言葉の両方が入っていることから選んだそうです。「罵倒語も完璧に翻訳できた」と自信たっぷりの許さんに対し古川さんは、日本語は韓国語や中国語に比べて罵倒語のバラエティーが乏しいことから、この作品に限らず「いつも頭を悩ませます」と話していました。

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 日本で韓国文学の読者が増えつつあるとはいえ、韓国語に翻訳された日本文学や邦訳された欧米文学に比べると、邦訳された韓国文学の数はまだ圧倒的に少ないのが実情だと、きむふなさんは話していました。多くのよい作品を日本に紹介するため、翻訳者の育成にも力を入れなければならないと古川さんは締めくくっていました。

 会場には日本語、中国語、ベトナム語に訳された韓国の小説や絵本が多数、展示されていました。同じ原作でも翻訳本の装丁は国によってさまざまで面白かったです。(文/写真:牧野美加)

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