韓国の絵本史と作家3人展(韓国通信)

 慶尚南道金海市で8月31日から9月2日まで開かれた「2018大韓民国読書フェスティバル(대한민국독서대전)」についてご紹介します。政府の文化体育観光部が2014年から「読書の月」の9月に開催している全国規模の読書博覧会で、読書の振興に対する積極的な取り組みが認められた自治体で開かれます。これまで京畿道軍浦市(2014)、仁川広域市(15)、江原道江陵市(16)、全羅南道全州市(17)で開催されました。

 3日間にわたって多数のプログラムがありましたが、特に注目を集めていたのは韓国の絵本の特別展です。イ・オクベさん、イ・ヨンギョンさん、アンニョン・タルさんの3人の人気絵本作家の原画や下絵、作業道具などが多数、展示されていました。見ているだけで自然と笑みがこぼれるような、ほっこりと心温まる絵ばかりです。一冊の絵本がどのように生まれるのかを垣間見ることもでき、子どもだけでなく大人も楽しめる展示でした。

 

すいかのプール原画展

すいかのプールアーカイブ

 

 

 

 

 

 

 

 

  イ・オクベさんは、韓国のお盆の風景を描いた『ソリちゃんのチュソク』(みせけい訳、セーラー出版)や、日本・韓国・中国の絵本作家による平和絵本シリーズの『非武装地帯に春がくると』(おおたけきよみ訳、童心社)などの邦訳版が刊行されているほか、『せかいいちつよいおんどり』(イ・ホベク文、おかだゆりこ訳、新世研)、『蚊とうし』(ヒョン・ドンヨム文、おおたけきよみ訳、アートン)などの絵を描いています。

 イ・ヨンギョンさんも、針仕事の上手な奥さんと道具の物語『あかてぬぐいのおくさんと7にんのなかま』(かみやにじ訳、福音館書店)や、韓国の古典小説をもとにした『ふしぎなかけじく』(おおたけきよみ訳、アートン)などの邦訳版があります。絵を担当した『よじはん よじはん』(ユン・ソクチュン文、かみやにじ訳、福音館書店)に登場する商店「九福商会」のセットもありました。

 アンニョン・タルさんは7月に邦訳が出た『すいかのプール』(斎藤真理子訳、岩波書店)をはじめ、『할머니의 여름휴가(おばあちゃんのなつやすみ)』、『왜냐면(それはね)』、『메리(メリー)』、『안녕(アンニョン)』など、ここ数年で次々と作品を発表しています。「すいかのプール」に見立てたボールプールは子どもたちに大人気でした。

すいかのプール

 

 

 

 

 

 

 

 「韓国の絵本30年、物語をつないでゆく」というテーマ展も充実した内容でした。作家が絵と文を手がけた韓国初の創作絵本『백두산 이야기(白頭山物語)』が刊行された1988年から現在までの流れを解説し、各時代を代表する絵本が展示されていました。伝統文化や昔話が中心だった絵本のテーマは、この30年で自然や環境、人権、障害、家族、老人、動物、平和などへと拡大し、表現技法も多様化してきたことがよく分かります。ヨーロッパやアメリカ、日本の絵本史が100年以上であるのに対し、韓国は30年という短期間で今に至っており、今後、韓国の絵本がどのように発展していくのかも期待されます。

百頭山物語

 

 

 

 

 

 

 子どもたちが夢中になって絵本を読む姿も印象的でした。先月『あめだま』の邦訳版が刊行されたペク・ヒナさんの『天女銭湯』(ともに長谷川義史訳、ブロンズ新社)や、『花ばぁば』(クォン・ユンドク著 桑畑優香訳 ころから)など韓日中の平和絵本シリーズ、各国語に翻訳された絵本も見かけました。

天女銭湯

花ばぁば

 

 

 

 

 

 

 

 読書フェスティバルでは他にも、日本でも人気のキム・ヨンス作家の講演やパク・ワンソ作品の朗読公演、全国の出版社約60社が本を販売するブックフェア、映画を鑑賞して原作小説の著者と参加者が意見を交換するプログラムなど様々な催しがあり、どれも盛況でした。(文/写真:牧野美加)