韓国における子どもと読書

 もうすぐ5月5日、こどもの日。お隣の国、韓国でも5月5日はこどもの日で、祝日となっています。出版都市として有名なパジュブックシティでは、こどもの日に合わせ、童話作家がお話の中の空間を再現した「不思議なおかしな絵本村」の展示、出版社が読者を社内に招待する「出版社オープンハウス」、童話の主人公に扮した子どもたちによる「ブックシティ子どもパレード」など、多数のイベントが開催されます。

 さて今回は、韓国における子どもと読書に関する動きをご紹介します。

 家庭の所得格差に左右されることなく、すべての赤ちゃん、子どもたちに絵本と触れあう機会を与えようという目的のもと、1992年に英国で生まれ、世界各国へ広がりを見せているブックスタート。日本でも多くの市町村で取り組みが行われているため、ご存知の方も多いでしょう。韓国では2003年に試験的に導入されたのち、2015年現在、193の学校、図書館、保健センターなどで事業が展開されています。

 日本では主に、乳幼児を対象にすすめられている事業ですが、韓国では乳幼児だけではなく、小・中・高校生までが対象とされています。小学校の入学式や図書館などでは、子どもたちに推薦図書が贈られ、ホームページでは年齢に応じた推薦図書リストが多数、提示されています。高校生を対象としたリストには、科学、哲学、人文学などに関する書籍のほか、本サイト「日本語で読みたい韓国の本」でもご紹介した『7年の夜』(チョン・ユジョン著)、『どきどき僕の人生』(キム・エラン著 きむ・ふな訳 クオン)、『殺人者の記憶法』(キム・ヨンハ)などの小説も含まれ、毎年、小・中・高、合わせて270冊ほどの書籍が紹介されています。

 また、韓国ブックスタート開設を推進したブックカルチャー財団は2001年の設立以降、全国に子ども図書館「奇跡の図書館」を設立、2015年現在、全国に12の「奇蹟の図書館」が誕生しています。

 一方、昨年末、韓国文化体育観光部より発表された「2015年国民読書実態調査」によると、対象となった19歳以上の男女5,000人と小中高等学校の児童・生徒3,000人のうち、年間平均読書率(1年間で、雑誌、漫画、教科書、参考書などを除いた紙書籍を1冊でも読んだ人の割合)が、成人では2010年の65.4%から65.3%へとわずかに減少したのに対し、児童・生徒では、92.3%から94.9%へ微増する結果となりました。また、成人の年間読書数平均が9.1冊であるのに対し、小学生では70.3冊、読書時間は成人の平日平均が2010年の31分から23分と減少したのに対し、児童・生徒は41分から45分へ増加傾向を見せました。調査結果から見ると、子どもたちは大人ほど本離れが進んでおらず、喜ばしい結果と言えそうです。

次に、韓国ブックスタート推薦図書リストの中から、5冊の児童書をご紹介します。

 

두더지의 고민(モグラの悩み)』(文/絵 キム・サングン 김상근)    l9788958288169

しんしんと雪の降る夜。友だちがいないことを思い悩むモグラくんの頭に、どんどん雪が降り積もっていきます。モグラくんは「悩み事があるときは、雪玉を転がしてごらん」というおばあさんの言葉を思い出し、雪玉を転がし始めます。

雪玉がどんどん大きくなるにつれ、悩み事もどんどん大きくなっていく気がします。大きくなった雪玉のせいで、目の前にいる動物たちにも気がつかなかったモグラくんは、カエルくん、ウサギさん、キツネくん……森の仲間たちをどんどん雪玉の中に巻き込みながら、雪玉を転がし続けます。 

悩み事が、転がる雪玉みたいにどんどん大きくなっていくことも、膨らんだ悩みごとで周りが見えなくなってしまうこともある。でも、仲間は、解決する手段はすぐ近くにある。そんなことをモグラくんが子どもたちに伝えてくれます。

 

감자 이웃(じゃがいもどうぞ)』(文・絵 キム・ユニ 김윤이)l9788991941427

アパートで一人暮らしをしながら畑でじゃがいもを育てるおじいさんが、アパートの住人にじゃがいもを分けてあげます。一人で食べるには多すぎて……と言いながら、そっけない隣人たちにじゃがいもを分けて回ると、隣人との疎通を妨げていた心の壁が崩れ始め、じゃがいも料理を手にした住人が、おじいさんのもとを訪れ始めました。これまで互いにぎこちない関係しか築けなかった人々が、おじいさんのじゃがいものおかげで心を通わせ始めます。

希薄になりがちな「ご近所さん」との交流の大切さ、そのぬくもりを再認識させてくれる作品です。

 

 

수박 수영장(すいかプール)』(文・絵 アンニョンタル 안녕달 「こんばんは、お月さま」という意味のペンネームです。)l9788936446819

毎年、夏に開かれる「すいかプール」! 夏の日差しを浴び、巨大なすいかがパンッ! と割れると、「すいかプール」の始まりです。田んぼで働くおじさん、ゴムとびをしていた子どもたち、洗濯に忙しいおばさんも、誰もがすいかの中に飛び込み、すいかの中を掘り進みます。種をほじって、できた穴に身を沈め、あ~きもちいい! さて、すいかプールではどんなことが起こるのでしょうか? スケールの大きな想像力をもって描かれたユニークなストーリー、見ているだけで涼しくなりそうなイラストが魅力的です。

 

 

 

 『팔랑팔랑(ひらひら)』(文・絵 チョン・ユジュ 천유주)l9788998751111

そよそよと心地よい風が吹く春の日、ひらひらと花びらが舞い散る桜の木の下に置かれたベンチで、猫のナビと犬のアジが出会います。お弁当を広げるナビと、読書を始めアジ。ぎこちなくベンチの端と端に座り、それぞれ違うことをしていた2人(2匹?)の仲が、ナビの鼻のてっぺんにひらひらと舞いおりた一枚の花びらをきっかけに急接近します。

繊細なタッチで描かれたモノクロのイラストの中にほんのり優しいピンクの桜。新しい出会いへの期待と不安が、巧みに描き出されます。

 

접시의 비밀(お皿のひみつ)』(文 コン・ムンジョン 공문정・絵 ノ・インギョン노인경)l9788994475608

毎朝、早く食べなさい! とママに怒られるユナ。でも、ゆっくり食べるのには理由があります。目玉焼きの下に隠れているお皿のひよこの絵を探すのに、時間がかかるのです。食事中に思わず居眠りをしてしまうのにも、理由があります。お皿のねぼすけコアラを見ていると、思わず眠たくなってしまうのです。お皿のお花が水をほしがっているように見えて、思わずお水をやったら、またママに叱られてしまいました。

大人の目には何の変哲もない「ただのお皿」の中にも、子どもにしか見えない世界が広がっているようです。お皿に描かれた色彩豊かなかわいいイラストを見ていると、大人の私たちも心がうきうきしてきます。