韓国を代表する知識人、申榮福(シン・ヨンボク)教授逝去

l9788971996676教保文庫による2015年ベストセラーランキング、人文学関連部門で第5位、総合部門でも第20位にランキングされた『담론~신영복의 마지막 강의(談論~シン・ヨンボク、最後の講義)』の著者であるシン・ヨンボク聖公会大客員教授が今月15日、逝去されました。聖公会大学の聖堂に設けられた献花台には数多くの教え子や同僚、政治家たちが訪れ、別れを惜しみました。日本でも人気の韓国焼酎처음처럼(チョウムチョロム、初めてのように)のラベルに書かれた文字と絵も、書家としても有名だったシン教授の手によるものです。  

1963年にソウル大学を卒業したシン教授は、朴正煕政権下の1968年、「統一革命党」事件に巻き込まれ、無期懲役の判決を受けました。その後、20年間に及ぶ獄中生活の末、1988年8月、特赦により釈放され、1989年から2014年までの25年間、聖公会大学にて教鞭を執りました。『談論』は副題にもあるように、シン教授の最後の講義録を書籍としてまとめたものです。中国のさまざまな古典を読み解き、それらを通した世界認識のすべを説く一方で、獄中での壮絶な体験や日常の小さな出来事を交えながら、人間理解と自己省察の大切さについて述べています。
1988年、20年間にわたる獄中生活の中で家族へ書き綴った書簡が『감옥으로부터의 사색(監獄からの思索)』として出版さl9788971990933れ、人々に大きな感動と衝撃を与えました。1998年には増補版も出版され、2005年ソウル市教育庁推薦図書に選定されています。  

また、韓国内の自然を散策しながら、各地の歴史や社会問題について考察し、平和への思いを綴った『니무야 나무야(木よ、木よ)』では、エッセイに添えられたイラストも自ら手がけました。そのほか、紀行エッセイ『더불어 숲(共に森になって)』には、1年がかりで22か国を訪問し、その国の人々が培ってきた精神、国と国との関係や人と人との関係についての思いが綴られています。厳しい世を生きる人々を力強く温かな眼差しで見つめるシン教授のメッセージを、イラストと共に味わうことができます。

どの著作も、読者に語りかけてくれるかのような文章からは、世界が共に生きることの大切さや、人生を有意義に過ごすためのヒントを人々に伝えようとするシン教授の情熱が伝わってきます。

一時は死刑宣告も受け、死を覚悟しなくてはならなかったシン教授。長く厳しい獄中生活を耐え抜いた者ならではの強靭な精神力と、長く厳しい獄中生活を強いられていたとは思えない温厚な人柄が滲み出る文章が、人々の心をつかみます。 豊かな知性と深い愛情をもって、人々を豊かな人生へと導いてきたシン教授は、残念ながら私たちのもとを去ってしまいました。けれど、数々の著作を通して、教授はいつでも私たちに語りかけてくれています。