日韓出版人交流プログラム「第2回 文芸編集者に聞く-SNS時代の本と編集者」レポート

2021年はオンライン開催となった、K-BOOK振興会主催の日韓出版人交流プログラム。5月21日には「第2回文芸編集者に聞く-SNS時代の本と編集者」が行われた。

ゲストのカン・ユジョンさんは、15年年近いキャリアを持つ文芸編集者だ。と同時に、個人アカウントの総フォロワー数は3.5万人以上にもなり、SNS上でも大きな発信力を持つ。

出版社の編集者として多忙なユジョンさんが、なぜ個人アカウントでのSNS活動に積極的に取り組んできたのか。SNS時代における編集者の役割をどう捉えているのか。2時間以上にわたり、お話くださった。

「第1回 韓国出版トレンドを聞く」レポートはコチラから

イベント概要

テーマ:日韓出版人交流プログラム「第2回文芸編集者に聞く-SNS時代の本と編集者」
主催者:K-BOOK振興会

第2回 文芸編集者に聞く-SNS時代の本と編集者
日程:2021年5月21日(金)19:00~21:00
スピーカー:出版社文学トンネ編集者カン・ユジョンさん

SNS時代の本と編集者「本は発見されなければならない」

カン・ユジョンさんは出版社の文芸チームを率いる編集者でありながら、一方では個人アカウントでSNSを活用して書籍や編集者の仕事内容を発信する活動を行っている。フォロワー数は、Youtubeに2.4万人、Instagramでは1.1万人。
(「編集者K(편집자K about a bookeditor)」)

オンラインレッスンプラットフォーム「クラス101」でも出版と編集の実務を教えるクラスを担当し、これまでのべ450人が受講した。
(「文化トンネ編集チーム長、編集者Kと一緒に学ぶ出版・編集実務(문학동네 편집팀장, 편집자K와 함께하는 출판 편집 실무)」

なぜ、ユジョンさんは、自主的にSNSでの情報発信をつづけているのか?

年間数万冊が出版される昨今、本の運命は、良質な中身だけではなく、読者に認知されるかどうかにも、大きく左右される。どんなにいい本であっても、その本の存在が知られていなければ、読者がその本を手に取ることはない。

SNSでは、自分が手がけた本を広告費を一銭もかけずに広報できる。読者が本を発見できるよう、ユジュさんはSNSに取り組んできた。

 

SNS全盛時代、コミュニケーションパラダイムの変化

SNSの普及に伴い、「本が発見される」ための方法も多様化している。

1〜2万人のフォロワーをもつ影響力のある読者も次々と生まれ、各自がそれぞれのユニークなスタイルで本の紹介をしている。

自ら積極的に発信する作家も登場し、その代表例がキム・ヨンハさんのブッククラブだ。 インスタで8.5万人のフォロワーを誇る。1ヶ月に1冊本を選び、読者と一緒に読み、インスタライブを行うのが恒例だが、毎回3〜4万回再生され、取り上げられた本はしばしばベストセラーになる。

Twitterにbotアカウントをつくり、好きな作家を応援するファンもいる。著作を何冊も購入して友人にプレゼントして配ったり、自費でオリジナルグッズを作成して広報で使うなど、芸能人のファンダムのような動きもある。

 

韓国出版業界で注目のYoutube番組3つ

ユジュンさんは出版業界で注目のYoutube番組を3つ紹介してくれた。

1. 民音社(민음사TV)(4.89万人)
世界文学シリーズを出している、老舗出版社民音社のYoutube。若い編集者ふたりによる気軽なおしゃべり、海外文学紹介、赤裸々な出版社裏話という3つの人気コンテンツがある。

出版社の公式チャンネルというやや硬いイメージを破り、他社の本でも面白ければなんでも紹介する。以前は堅苦しいイメージがあったが、方向性の転換により若い読者からも熱烈な支持を受ける出版社へと変わり、この番組にも熱心なファンが多数ついている。

2. 冬(キョウル)の書店(겨울서점 Winter Bookstore)(18.5万人)
Booktubuの始まりともいえる、読書好きのキムキョウルさんの書籍紹介番組。キョウルさんはシンガーソングライターで、最近はラジオパーソナリティとしても活躍している。安定した声と説明で人気がある。

3. 「編集者K(편집자K about a bookeditor)」(2.44万人)
本を作る日常をつづっているユジョンさんの番組。「毎月のおすすめ新刊本紹介(多様な分野から4冊)」「仕事をしながら感じたこと」「出版関係者ゲストを招待しての本にまつわるトーク」の3つのカテゴリがある。企画、構成、動画撮影、編集まですべて1人でこなし、膨大な労力がかかるものの、週に1本ペースで新しい動画をアップしている。

 

ユジョンさんが出版関係者にSNSを勧める理由

編集者としても多忙なユジョンさんがSNSを続けるのは「広告費をかけずに本の宣伝ができる」のが1番の理由。加えて、継続してきたことで「編集者K」というブランドができ、影響力を持てるようになったのも大きなメリットだと感じている。

ユンジュさんのSNSは編集者ならではのコンテンツを中心としており、コアなフォロワーは編集職に就きたい人、新人編集者、あるいは読書の嗜好ががある程度定まっている読者となっているそう。

最初から明確なコンセプトがあったわけではなく、続けていく中で視聴者の反応をみながら、他のYoutube番組との差別化ポイントはどこにあるか、自分の強みはなにかを探りながら、すこしずつ現在の形につくりあげていった。

自分より経験も知識も豊富な編集者が大勢いる中で、編集者の代表でもあるかのように情報発信してもいいのか悩んだが、努力して続けるうちに、編集者としても成長できたと感じている。

これから発信を始めようとしている人には、1日でも早く始め、長く続けることを勧めたいという。

Q&A
講義のあとには質疑応答の時間が設けられた。その一部も紹介しておきたい。

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Q:編集者の仕事をしながら、個人でSNS発信を続けていくのは大変なことだと思います。どのくらいペースで書籍の編集を担当されているのでしょうか?

A:
年間6〜7冊担当することが多いのですが、昨年は15冊刊行しました。小説だけではなく、(小説に比べるとかかる時間の少ない)詩集も含まれています。

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Q:誰でも発信ができる時代に、どうすればフォロワー数を増やせるのでしょうか?

A:
継続することと、自分なりのスタイルを見つけることだと思います。

わたしを例にすると、韓国文学を専門とする編集者という職業柄、作家さんとお会いする機会が多くあります。そのような場での印象的なシーンをつづったり、作家さんの自然な姿を撮影した写真をアップしたときは、反応がいいなと感じます。

「これは反応がいいだろう」とアップしてもそうではなかったり、「こんな内容でもいいのかな?」と躊躇しながらアップしたら爆発的な反応があったり。SNS発信を続けながら、反応見ながら試行錯誤を繰り返し、自分ならではのコンテンツを見出してきました。

たとえば、わたしのYoutubeでは毎月3〜4冊の新刊を紹介するコーナーが1番人気があります。最初は、「新刊情報なんてみんな知ってるんじゃないかな、興味を持つ人がいるのかな」と半信半疑でアップロードしたら、反応がとても良くて。わたしにとって新刊を毎日チェックするのは仕事の一部として当たり前の習慣でしたが、それは編集者という職業だからこそ、なんですよね。一般の人はそんなことをしないし、だからこそ求められる情報なんだな、というのを知りました。

試行錯誤しながら自分の差別化ポイントをみつけ、なにより続けていくことだと思います。

<イベント視聴を終えて>

本が発見されるためにSNSで情報発信をしていく。SNSの普及で出版社と作家と読者のコミュニケーションのありかたも変わりつつあるなか、ユジュンさんはいち早く行動を起こして継続している。韓国は日本と比べてあらゆる変化のスピードが早いと感じているが、ユジュンさんは出版界でその先陣をきっているんだなと感じた。

次回のゲストは、「本を仕立てる」ユニークな企画で注目を浴びている、人文編集者チョ・ウンソンさん。その独自の著者発掘ノウハウについて、話を伺う。

「第3回 人文書編集者に聞く―著者をどのように発掘するか」
日程:2021年6月25日(金)19:00~21:00
スピーカー:UU出版社代表チョ・ソンウンさん

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(文責:森川裕美)