【K-BOOK振興会だより】斎藤真理子さん、読売文学賞受賞/ミニコラム:赤ちゃんのウンチは王様だった

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K-BOOK振興会便り  2025年2月号        http://k-book.org/
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2025年2月1日に第76回読売文学賞が発表され、翻訳家の斎藤真理子さんが『別れを告げない』(ハン・ガン著 白水社)で
「研究・翻訳賞」を受賞されました。斎藤真理子さん、おめでとうございます。
今年の受賞者には、2019年に韓国文化院で開催した「翻訳フェスティバル2019 – 世界の名作への扉」に斎藤さんとも
ご一緒に登壇いただいたチェコ文学者で翻訳家としても知られる阿部賢一さんも「評論・伝記」賞を受賞されました。
うれしいニュースが続きますね。(さ)

https://prizesworld.com/prizes/various/yomi.htm#list076

◆◇今月のTOPIK◇◆

●イベント情報●

2月6日(木):【チェッコリ/会場+オンライン】
『도쿄 킷사텐 여행(東京喫茶店旅行)』の著者が語る―芸術家たちに愛された東京の喫茶店文化
ゲスト:チェ・ミンジ( 최민지)
https://chekccori250206.peatix.com/

2月7日(金):【チェッコリ/会場+オンライン】
これだけは知っておきたい! K-BOOK基本ガイド 〜何から読めばいいのか分からない方や、流行の全体像を知りたい方に向けて〜
ゲスト:小山内 園子、浅見綾子
https://chekccori250207.peatix.com/

◆◇日本語で読みたい韓国の本◇◆

エッセイ 『言いたいことはたくさんありますし、転がります(하고 싶은 말이 많고요, 구릅니다)』
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●車いすユーザーのキム・ジウによる初エッセイ

2017年からYouTubeチャンネル「転がれグルニム」を運営するキム・ジウの初めてのエッセイである。
個性豊かな著者が、若い女性として、障害を持つ者として、車いすに乗る者として、学生として、誰かの家族として、
生まれてからこれまでに韓国社会で経験してきた日常が綴られている。
幼い頃にリハビリのために病院に長期滞在していたこと、障害児を抱える親の手探りの日々や、
障害やリハビリについての情報が少なかったことによる苦悩、著者家族が経験してきた差別などを、
独特でウィットに富んだ語り口で思慮深く綴っている。両親を呼び捨てにしているところにも著者の個性が表れている。
著者は本書を通じて、障害者と健常者の双方が、日常の中に潜む差別や偏見を振り返り、互いの理解を深めてほしいと願っている。
https://k-book.org/yomitai/250113/

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小説 『敵産家屋の幽霊(적산가옥의 유령)』
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●短編集『カクテル、ラブ、ゾンビ』の作者チョ・イェウンの最新長編

小説の舞台は、全北特別自治道 群山市新興洞の日本式家屋(広津家屋)を主なモチーフとした「敵産家屋」だ。
日本に留学し、就職はしたものの閉塞感を感じながら毎日を過ごしていたウンジュは、
10年前に不審な死を遂げた母方の曽祖母の遺言で「敵産家屋」を譲り受け、韓国に帰国することになった。
遺言の内容は「ウンジュが30歳になったら1年間だけその屋敷で暮らすこと」。
譲り受けたのは1930年代に日本人貿易商「カネモト」が建てた屋敷だった。小説家だった曾祖母が書き残した1940年代の出来事と、
歴史を経た現代の敵産家屋で過ごすウンジュの周辺で起こる出来事を交差させながら物語は意外な方向に展開する。
韓国で「チョ・イェウン・ワールド」と呼ばれる、血の生臭さが漂い、悲鳴が耳に残るような鮮烈な描写と、
歴史を経た屋敷の暗く重厚な雰囲気は、読者の想像を刺激する。
https://k-book.org/yomitai/250120/

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エッセイ 『とにかく、方言(아무튼, 사투리)』
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●方言にまつわる14のエッセイ

著者が、考えるだけでもうれしくなってしまうものを詰め込んだエッセイ、『とにかく』シリーズの1冊。
著者のタドゥレギは、生まれは朝鮮半島南東部の釜山、大学は南西部の順天、今の住まいは西に位置する光州。
そんな自身の話す言葉を釜山と光州の境にある「花開市場」の言葉だと称する。
地元ではスリッパを意味する単語を大学の食堂で叫んだところ、その地方では卑猥な意味であったために恥をかいた話、
コールセンターの同僚が、地方とは言えある程度大きな都市の出身であるために、
自分が方言を話していることに気がつかず苦労している様子についての話、自分たちより強い釜山方言を話す母をからかっていたが、
母に方言でかけられた労りの言葉が、いつまでも自分の中に残っている話などを通じて、人生に笑いや深い思索をもたらしてくれた方言を、
著者が愛おしく思っていることが伝わってくる。エピローグでは、漫画家が本業である著者自身のイラストで、
根深い地域対立によって試合の度に激しく衝突していた釜山と光州の野球チームのそれぞれのファンたちが、
憎まれ口をたたきながらもともに観戦を楽しむ様子が描かれている。耳を傾ければどこの地域の出身であってもたくさんの話ができる
だから私は「そのひと自身の言葉」が好きだと著者は結ぶ。
https://k-book.org/yomitai/250127/
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◆◇日本語で読める韓国の本◇◆

『コミック・ヘブンへようこそ』(パク・ソリョン 著/チェ・サンホ 絵/渡辺麻土香 訳/ 晶文社)
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著者パク・ソリョンの『滞空女 屋根の上のモダンガール』(萩原 恵美約、三一書房)、『シャーリー・クラブ』(李聖和訳、亜紀書房)に続く、日本語訳3冊目です。
晶文社の新しい海外文学選書シリーズ「IamIamIam」の3冊目として登場した本作は、物語を読むことで、今まで見過ごされていた声に触れる海外文学選書シリーズ。
「手に取りにくい・堅い・難しそう」じゃない、初めて海外文学を手に取る方にもおすすめできるシリーズとのこと。
日常のささいな出来事を題材にしつつも、なぜかずしりとくるテーマを、しかも軽やかに綴られている本作『コミック・ヘブンへようこそ』は、
このシリーズにぴったりです。
各篇ごとに挟み込まれた優しい色合いのテーマをイメージしたイラストも心に優しい火を灯してくれるようです。
訳者の渡辺麻土香さんからメッセージを頂戴しました。
https://k-book.org/yomeru/250110/

『罰と罪 上・下』(チャン・ガンミョン 著/オ・ファスン 訳/ カン・バンファ 監訳/ 早川書房)
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上・下巻合わせて、約1000頁にもわたる長編の警察小説でミステリー小説、チャン・ガンミョン著『罰と罪』。
20年前に起きた未解決事件を再捜査することになった新米女性刑事のジヘとその仲間たちの捜査の進展が綴られていく偶数章と、
犯人の独白が綴られる奇数章の2本立て。しかも犯人はロシアの小説家、ドストエフスキーの作品に心酔し、哲学を語っていきます。
1冊で2つの作品を同時に楽しめる贅沢な作品でした。
訳者のオ・ファスンさんからメッセージを頂戴しました。
https://k-book.org/yomeru/250130/

◆◇ 韓国の出版・本屋事情 ◇◆

教保文庫、12月の月間ベストと注目の新刊(韓国小説)
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12月もハン・ガン旋風が勢いを増してランキングを独占する中、話題の作家らによるアンソロジーや海外からも注目されているヒーリング小説など、
新刊も続々と刊行されました。注目の新刊で詳しく取り上げています。
https://k-book.org/publishing/20250105/

教保文庫、12月の月間ベストと注目の新刊(エッセイ)
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2024年に注目された図書がランキングの大部分を占めました。注目の新刊では、フランスで活躍する翻訳家によるエッセイと、
日本のアニメをきっかけに日本語学習を始めたユーチューバーの書籍を紹介しています。
https://k-book.org/publishing/20250107/

◆◇12月のK-BOOKらじお◇◆

#130  Yo-Noや아보하など、2025年トレンドや新年に読みたい本をご紹介|ソ・ハナの韓国の本、ウロウロてくてく
https://k-book.org/news/radio_130/

#131 2024年お気に入りK-BOOKや皆さんの感想をご紹介|わたし、これ読みました
http://k-book.org/news/radio_131/

#132 読まないと書けないから、初の警察小説に準備は2カ月掛けて完成!-「わたし、これ訳しました」|オ・ファスンさん
http://k-book.org/news/radio_132/

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_____ミニコラム〈五十嵐真希の小さな翻訳恋物語〉_______

♯1 赤ちゃんのウンチは王様だった

自宅から最寄り駅までの道ばたに山茶花の花が散り、紅色の花びらが絨毯のように敷き詰められています。
お正月のころは満開で、花びらの紅色としべの黄色が雲一つない青空にとてもよく映えていました。山茶花が終わりかけたなと思う頃から、
藪椿が咲き始め、濃い赤色の艶やかな花を大きく咲かせています。乙女椿も咲き始めています。薄桃色の花びらが幾重にも重なり、ぽってりした形が和菓子のようです。
思わず手のひらで包んでみたくなります。

木に春と書く椿は、寒風吹きすさぶ冬の真っ只中に小さな春の到来を感じさせる花です。日本人にとてもなじみがありますが、
韓国でも、椿は春を感じさせる花として人々の暮らしに根付いています。詩や小説などにもよく登場します。

韓国語で椿の花は「동백꽃(トンベクッコッ)」といいます。「꽃」が花を意味し、「동백」を漢字で書くと「冬柏」です。
冬に花を咲かせることと、柏のように葉が蒼々としていることから、このような名前がついたのでしょう。では、山茶花は?

山茶花は韓国語で「애기동백꽃(エギトンベクッコッ)」です。「애기(エギ)」は赤ちゃんを意味し、つまり「赤ちゃん椿」。
山茶花は、韓国では済州島や釜山や統営などの南部でしか見かけない花ですが、椿より花も葉っぱも小さいことから、このようなかわいい名前がつけられました。

赤ちゃんを意味する「애기(エギ)」が頭につく花が韓国にはいろいろあります。例えば、「애기똥풀(エギトンプル)」。
詩人アン・ドヒョンの作品にこの花の名をタイトルにした詩があります。詩の内容は、“35歳になるまでこの花の名前を知らなかった。
毎年春になると、とてもかわいい姿を現して私の顔を見つめていたというのに。こんな人間が詩を書いていたなんて”というものです。
この花の名前、直訳すると「赤ちゃんのウンチ草」。発音も意味もとても愛らしく、「赤ちゃんのウンチ草」も知らずに詩を書いてきたなんてと語る詩に心をうばわれ、
すぐに翻訳しようと思いました。ちなみに、名前の由来は、茎にキズをつけたときに出てくる黄色い液が赤ちゃんのウンチみたいだから。

さて、翻訳にあたり日本名を調べました。なんと、この花の日本名は「クサノオウ」。
漢字で書くと「草の王(薬草としてすぐれているから)」や「瘡(くさ)の王(皮膚病に効能があるから)」、
そして「草の黄(黄色い液を出すから)」。花の名から受け取るイメージが日韓で正反対。
タイトル一つで原詩と訳詩の世界観が大きく変わってしまいます。
私が恋した「赤ちゃんのウンチ草」が「王」だっただなんて!

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