信仰、希望、そして虎(믿음 소망 그리고 호랑이)

原題
믿음 소망 그리고 호랑이
著者
パク・クムサン
出版日
2025年8月20日
発行元
文学手帳
ISBN
9791173830150
ページ数
416ページ
定価
16,000ウォン
分野
長編小説

●本書の概略

詩的なうつくしさをたたえる多声的な文体で、ヨハンナというひとりの女性が出遭った暴力の経験から、20世紀の戦争暴力、特に第二次世界大戦とそれ以降に東アジアで起きた暴力をたどり、母と娘の間にある語り/聞くことの継承を描いた小説。

母とふたりで暮らすヨハンナは、母が洞窟事故に巻き込まれた後、ひとりで夜に外出できなくなってしまう。ヨハンナは夜道を安全に散歩するための大型犬(リリー)を契約するが、ある夜、後ろをつけてきた男への恐怖を前に、放してはいけないと言われていたリードを放してしまう。リリーは男に襲い掛かって重傷を負わせてしまい、ヨハンナは恐怖からリリーを洞窟に置き去りにする。いつまでもリリーを迎えに行けず、罪悪感をつのらせるヨハンナのもとに、虎が訪ねて来る。人間の姿にもなる虎は、虎と人間のどちらかに固定されることを激しく拒絶する。すんなりとはいかない虎との対話を経たのち、ヨハンナはリリーがいる洞窟を訪ねて和解を試みる。母の事故、自身に降りかかった暴力、虎とリリーとの対話を通して、ヨハンナは、母カレン、祖母デボラ、曾祖母ラヘル、高祖母ヘレンの痕跡をたどり、暴力の系譜をひもといていく……。

●目次

第一部
第二部
第三部
第四部
筆者の言葉
解説

●日本でのアピールポイント

トラウマ研究の第一人者である宮地尚子は、「本当は言葉にならないはずのトラウマを、伝達可能な言葉にすることの矛盾は、発話者をも聞く者をも揺らがせる」(『環状島=トラウマの地政学』)と書いた。暴力の経験を語ることは、他者の理解可能性に賭けて生身の自分を差し出す試みといえる。当事者は暴力の記憶との共存と対峙を強いられながら、他者からは語る資格や語りの正当性を問われることになる。この物語は、人々を純粋で哀れな被害者や、憎むべき恐ろしい加害者という単純な像へ閉じ込めずに描こうとする。複雑さそれ自体を表現するとともに、そこに厳然と存在する/した暴力と、それでもなお共にある可能性を探ろうとする。
ヨハンナが、母と祖母たちが辿った時代と暴力の痕跡を語るとき、「것 같다(のようだ)」と「고 한다(と言う)」という3文字があちこちに挿入される。3文字の文末表現は、本人に成り代わるのではなく、そばに腰かけて、自分を通して他者の物語を語る様子を私たち読者に伝える。
理解できない他者への嫌悪や抵抗が渦巻き、被害と加害の分かりやすい像が求められる現代日本に対し、明晰でなめらかな理論ではなく、不確かでとらえどころのない他者との関わり合いから、分かり合えない他者と共に在る方法を示唆してくれる1冊である。

(作成:中尾未来)

パク・クムサン
1972年、韓国南部の麗水に生まれる。高麗大学校国語国文学科を卒業し、同大学で博士号を取得。2001年、短編「共犯者たち」が文芸中央新人文学賞を受賞し、文壇デビュー。他の著作に、『존재인 척 아닌 척(存在しているふり、していないふり)』、『남자는 놀라거나 무서워한다(男たちは驚くか怯えている)』、『AI가 쓴 소설(AIが書いた小説)』、シリーズ『바디페인팅(ボディーペインティング)』、短編『소설의 순간들(小説の瞬間たち)』などがある。(いずれも未邦訳) 2016年「呉永寿文学賞」を受賞。現在はソウル科技大学文芸創作学科に在職中。