●本書の概要
死について考えることは、生きる意味を問うことにつながる。人間関係が希薄になりつつある社会で、心の傷と再生、葛藤と和解はどうあるべきか、人はなぜ生きるのかを、社会の周縁にいる若者の視点から、静かな筆致で語りかける。重いテーマを扱いながらも未来に希望を感じさせる結末となっており、深い余韻を残す長編小説だ。
ある地方都市に開設された臨終体験館。死を‘体験’して命と向き合い、少しでも自殺者を減らそうとの目的でつくられた。重い体験を‘手軽に’できることから関心を集め、来場者も増えて地域の観光振興にも寄与していた。
そんなある日、「自分の知人がここに来た翌日、自殺を図った」と主張する人が体験館を訪れる。館の設立目的とは相いれない事態だ。自殺を図ったのは誰なのか。ここで働く4人のスタッフは、それぞれ自分の心の傷と関わる人物を思い浮かべ、気持ちを揺さぶられる。
●目次
本文(「1」~「8」)
作家の言葉
●日本でのアピールポイント
日本では少子化が進む一方で、2024年に初めて死亡者数が160万人を超えるなど「多死化」も進行している。災害や伝染病、海外での戦争などにより将来に不安を抱く人が増える一方で、「家族葬」など葬儀の個別化も進み、必ずしも「死」が身近に感じられているとはいいがたい。そんな中、「死」を真正面から見つめようとのイベント(※)も開催されるなど、若い世代も巻き込んで多死社会における生き方を考える動きは始まっている
※参考:「DEATHフェス」(一般社団法人デスフェス主催)
Deathフェス | Well-Being in life and death
本書は「臨終体験館」という独創的な舞台設定の中で、「死」を通じて「生」を見つめようとする物語である。重いテーマを扱いながらもそこに絶望ではなく希望を見いだそうとする作品であり、決して暗さに沈まない。抑えた筆致で静かに語りかける文体は、読書を通じて「死」を見つめ直し、人生をより豊かにしたいと考える日本の読者層にも響くものがある。
また、登場人物はそれぞれ性被害、孤独、借金、介護など多様な問題を抱えており、傷ついた人々の内面が丁寧に描かれている。今の日本でも身近に感じられる問題であり、国の違いを越えて多くの読者の共感を得られると考える。
(作成:金子博昭)

