●本書の概略
韓国のエッセイスト、ノ・ジョンヒによる食と人生をめぐるエッセイ集である。料理や食材にまつわる記憶を通して、人との縁、老い、家族、そして生きることの意味を静かに見つめ直していく作品である。
本書の中心にあるのは「食べることは生きること」という極めて普遍的なテーマである。著者は、かぼちゃや薬膳料理、季節の食材など身近な食べ物を手がかりに、自身の人生の断片や家族との思い出を語る。そこには単なるグルメ論ではなく、病や老いに向き合う時間、人を看取り見送る経験、そして日々の食卓が支えてくれる心の温もりが描かれている。
タイトルにある「かぼちゃ」は、豊穣や生命力の象徴であると同時に、幼い頃の記憶や家族への愛情を呼び起こす存在として登場する。著者は食材一つひとつに宿る物語を掘り起こしながら、現代社会の中で忘れられつつある人間同士のつながりを再発見していく。
華やかな出来事が起こるわけではない。しかし、食事を囲む何気ない時間や季節の移ろいの中にこそ人生の真実があることを、本書は穏やかな筆致で伝える。読後には、今日の一食や家族との会話が少しだけ愛おしく感じられるような余韻が残る作品である。
●目次
幼年の庭
薬になる食べ物
由来のある食べ物
母の思い出
話により味により
食欲をあげる健康食
●日本でのアピールポイント
日本では近年、『日日是好日』や『食堂かたつむり』、あるいはエッセイ分野では『今日もごちそうさまでした』のように、食を通じて人生を見つめ直す作品が幅広い読者に支持されている。本書もその流れに位置づけることができる。
特に日本では高齢化が進み、「どう老いるか」「どう生きるか」というテーマへの関心が高い。本書は健康情報や薬膳の知識だけでなく、食を媒介にした人生哲学が語られているため、中高年層を中心に共感を呼ぶ可能性が高い。
また韓国では近年、食文化を通じて人生や地域共同体を描くエッセイが人気を集めている。本書は韓国独自の薬膳文化や家庭料理を紹介しながらも、家族への思い、故郷への郷愁、生きる喜びといったテーマは日本人にも非常に親しみやすい。
日本の読者には、向田邦子の食にまつわる随筆や、森下典子『日日是好日』、平松洋子の食文化エッセイなどを愛読する層に訴求できるだろう。韓国の食文化を知る入口としても魅力的であり、韓流ドラマや韓国文学に関心を持つ読者にも広がりが期待できる。
(作成:横田明)

