●本書の概略
生きづらさを抱えたまま、毎日をやり過ごすそれぞれの語り手。けれど、その声はどこか明るく、思わず笑ってしまう七つの話が綴られた短編集。
最初の三作は、母、父、娘が語る連作形式の家族小説である。家族を支えるために働き続けるオ・スンジョン、夢を諦められず息苦しさを抱えるキム・ジョンマン、その二人のもとで育った長女キム・ハナ――身近にいてもどこか遠い家族の距離感を描く三編である。
「自転車の傾き23.5°」では、リサイクルショップで自転車を盗んだ老人と出会った青年が、自転車の乗り方を教えるなかで、祖父との記憶を重ねていく。
「ロト」は、コンビニでアルバイトをする主人公が、店の周りに現れた野良猫を助けようとするなかで、現実的な問題に直面する。
「リトルモンスター」は、ADHDの子どもを育てる夫婦が、子どもを愛すからこそ経験する葛藤や苦悩を描いている。
「ドリーム・フォーエバー・シティ」は、バーチャル・リアリティのなかで理想の人生を体験した後、死を選ぶ施設へ向かう母親の物語。
●目次
オ・スンジョンはきょうも
キム・ジョンマンはきょうも
キム・ハナはきょうも
自転車の傾き23.5°
ロト
リトルモンスター
ドリーム・フォーエバー・シティ
著者のことば
●日本でのアピールポイント
飾り気のない会話や淡々とした地の文で描かれた七つの物語は、韓国の日常にも、日本のどこかにもいるような家族を思わせる。それは、生活の延長のような語りでありながら、深刻さを深刻なまま語りすぎない、著者の絶妙なバランス感覚によるものかもしれない。
本作は、生きることや生活に対する著者自身の姿勢が、そのまま表れている。著者のエッセイ『ひりつく人生から、笑いだけつまみ食いした』では、こう綴っている。
「頑張らなくても年を重ねるし、いくら頑張っても通帳の残高は減る一方だけど、決して人生はマイナスではない。生きている時間すべてが輝くことはできないけれど、ほんの少しの間、輝いていたその瞬間が、人生を支えてくれていると信じている」
ほんの少し輝いた瞬間も、そうでない瞬間も、随所にユーモアを滲ませながら、疲れているのにどこか笑える、ちょうどいい距離感で描かれる物語は、日常のそばでささやかな慰めになるだろう。
表題作「オ・スンジョンはきょうも」より
不動産をあとにして、少し離れたバス停からバスに乗り、毎週立ち寄る――一等が三回も出たという宝くじ売り場へ向かう。いやでもまた始まる辛い一週間を耐えられる、一万ウォン分の夢を買って財布にしまい、私、オ・スンジョンはきょうも子どもたちが待つ家へ向かって、希望に満ちた一歩を歩みだす。
(作成:あさか すんひ)

