●本書の概略
2000年代に青春を過ごした著者による自伝的な小説。高校入試に失敗して実業高校へ進んだテインが、友人やクラスメイトとの日々を通して未熟さを残しつつ成長していく姿が描かれる。
テインは大田(テジョン)に住むゲームとマンガ好きの中学三年生。絵を描くのが好きで芸術高校を志望するも成績が届かず、実業高校へ進学する。気乗りしないまま通い始めたものの、建築デザイン科の製図の授業に面白さを感じ始める。クラスでは、物語を書くのが好きなキュヒョンと仲良くなり、二人で文芸部を作るまでになった。最初はクラスに馴染めなかったテインは、オンラインゲームや漫画の話題をきっかけに周囲とも打ち解け、学校生活にも自然と慣れていく。中間試験では、友達と協力して勉強し、まずまずの結果を出す。しかし、学級委員で不良のグヨンがキュヒョンをいじめ始め、テインは助けたいが、怖くて動けない。嫌がらせが激しくなったとき、キュヒョンはついに反撃に出る。キュヒョンから長年のいじめの苦しみを打ち明けられ、テインは傍観していた自分を恥ずかしく思い、これからは彼を守ろうと決意する。一方、テインには中学時代から付き合うチェヨンという存在がいる。成績優秀な彼女は進学校に通っているが、テインは自分が実業高校に通っていることを後ろめたく感じていた。ある日、彼女の両親から交際を反対され、二人は仕方なく別れることに。テインはそのとき初めて、彼女を本当に好きだったと気づき、どうすることもできない自分の未熟さを痛感する。失意のテインをキュヒョンはうまく慰められない。「お前の物語を書きたい」とキュヒョンが提案し、二人は文芸部へ向かう。
●目次
1.2003年冬、進学のこと
2.2004年春、新たなスタート
3.2004年中頃、気づけば馴染んでいる
4.2004年末、ともに埋めていく空白
著者あとがき
●日本でのアピールポイント
本作は2000年代を舞台に、中学三年から高校一年にかけてのテインの日常と成長を、当時の経験や心情を通して丁寧に描かれる。自伝的な物語であるため、劇的な展開よりも、実際の学生生活が静かに綴られている点が特徴だ。当時の韓国の男子中高生が何に関心を持ち、学校や家庭でどのように過ごしていたのかがよく伝わってくる。
日本と韓国では学校制度こそ異なるが、受験や進路、友人関係、恋愛に悩む気持ちは共通している。日常の出来事がありのままに描かれているため、同年代の若者はもちろん、大人が読んでも思春期の揺れ動く感情が呼び起こされ、懐かしさを感じるだろう。
作中には、当時彼らが読んでいた日本のマンガのこと(漫画家のあだち充やコミック『ラブひな』など)や、オンラインゲームに夢中になる少年たちの姿が登場し、その時代の若者文化が垣間見える。現在、Kカルチャーが世界的に広がっていることを思うと、時代の変化も感じられる。尖った口調や冗談交じりの会話など、高校生特有の空気感も生き生きと描かれ、まるで教室にいるような臨場感がある。
高校生活の中で、テインが将来への悲観から少しずつ抜け出し前向きになっていく姿や、いじめに遭うキュヒョンを前に傍観をやめて寄り添おうとする心の変化は印象的だ。いじめという普遍的な問題についても考えさせられる。また、良い関係を築いていたチェヨンとの別れは、順調に進む学校生活とは対照的で、若さゆえの不安定さを際立たせている。
誰もが覚えのある心の揺らぎが随所に散りばめられ、読者自身の「昨日」をそっと呼び戻してくれる作品である。
(作成:長谷美香)

