●本書の概略
私たちの社会は今までずっと、何かを「成し遂げる」ことを重視してきた。経済成長や消費を重視する時代を経て、気候変動やパンデミックを経験している今の私たちには、より踏み込んだ意識の転換が求められている。
本書では、何かを「すること」より「しないこと」に目を向け、その例として出産、ペットを飼うこと、肉食などをしない世界の姿を考える。
著者は、これらの対象を通して、環境問題やポストヒューマニズムの視点を探求し、4部構成で各テーマを掘り下げながら「しない世界」を考察し、人生の意味を考えていく。
本書は、統計や社会学的な分析ではなく、個人の経験や感情を通して問題を共有しようとする点がユニークだ。
「深い変化は停止や中断から始まる」と考える著者は、読者に対して「しない」選択の可能性を主張して説得しようとするのではなく、新しい見方で一緒に考えてみようと問いかけている。
●目次
1部 人と人
2部 動物と人
3部 物と人
4部 芸術と人、または愛
エピローグ
●日本でのアピールポイント
先進国においては、20世紀のような大量生産・大量消費の時代は一段落したが、利便性や合理性の最大化を求め、あるいは個人の心の豊かさを得るために、少しでも新しいものを食べたり、買ったり、見たりすることに価値を見出そうとする傾向は、おさまるどころかますます盛んになっている。著者は本書で、生まれてから死ぬまでの私的なテーマを通して、当然のことと考えられてきた出産、肉食、ペット文化などをあえて「しない」ということの持つ意味、そして「しない」ことで自分と自分を取り巻く世界が少しずつよくなるのではないかと語る。日韓ともに少子化や高齢化が社会問題になっている状況で、本書に挙げられたことを「しない」世界はいったいどんなものなのか、本当に社会はうまく回っていくのか。最初は疑問を持ちながら読み始めても、著者の語る新たな視点に引き込まれていくだろう。
(作成:伊賀山 直樹)

