●本書の概略
30ヵ国余りを旅してきた著者が、世界との距離を狭めながら自分の街を探して誰かの街に入ることについて綴ったエッセイ集。
始まりは香港旅行に当選したことだった。周りのみんなはやめておけ、と言う。偶然ネットで見つけたプレゼント企画で、名前も知られていない会社だったから、自分でも詐欺ではないかと疑ったりもした。しかし怖さより「行ってみたい」気持ちが勝り、担当者に言われるままパスポートを作り、個人情報を伝えた。その結果は、他の参加者と気持ち良い旅行を楽しんで帰ってきた。そして著者は気づく。私たちの大部分の選択は、今のまま留まるのか、それとも進むのかに対する選択である、と。留まる方がはるかに簡単ではあるが、自分は進む方を選ぶ人生を生きる、という目標を掲げることにした。
子どもの頃の夢は作家になることだったという著者は、世界中を旅して綴っていく。時には財布をすられたり、スマホを盗まれたりもした。訪問するタイミングを間違えて後悔したこともあった。だがそうした失敗の中にも学びを見出して、過去の失敗は教訓として活かす。そして今を生きるために前に進む。
誰かにとっては日常である街が、他の地から訪れた人にとっては特別な街となる。その街と自分との距離に悩みながら、自分の街を作っていく。様々な気づきと逞しい精神力にあふれたエッセイ集だ。
●目次
プロローグ/香港/パリ/スカイダイビング/ピカソ美術館/ブエノスアイレス/エゲ旅行地/バラナシ/美しい町の本屋/南極/ジャイサルメール/アブダビ/ケソン/アディスアベバ/マサイマラ/ケニア/ザンジバル/タイガーキンダム/中国/ヤンゴン/サントリーニ/ラノ島/トロムソ/シンガポール/チトワン/アメリカ/エステルゴム/アフリカ/チェンマイ/ブタペスト/カンクン/湯布院/ブルネイ/エピローグ
●日本でのアピールポイント
旅に出て道中のすべてが順調に進むことを皆願う。しかしそうなるとは限らない。思うようにいかない旅、来ないほうが良かったと思う旅でも続けているうちに別の見方ができ、その中で多くのことに気づく。著者はうまくいかないことに出会っても、そこに意味を見つけて次に進む。彼女のその前向きな姿勢には学ぶものがある。旅行が好きな人も、旅行記を読むことが好きな人にもお薦めできる本だ。
表紙と各章に添えられた絵は、ときには一緒に旅をする著者の母によるもの。日本で出版されるときも、これらのイラストは是非カラーで味わいたい。このイラストがあってこそ著者の旅の情景が伝わると考える。
・観光地の説明に重点をおいていないという事と、著者が訪問した年や季節がはっきりしないという点を踏まえ、旅の参考にする際は各自が事前に最新の現地情報を確認する必要がある。
(作成:小室里美)