●本書の概略
大人になっても誰もが必要とする言葉、「あなたの心強い味方になってあげる」この言葉がテーマとなるハートウォーミングな物語。
小さな港湾都市で孫娘ソンジュと二人暮らしのジョンオク。物語はジョンオクのお葬式から始まる。生前、善い行いをしたからとこの世に九か月間とどまることを許され、一人ぼっちになったソンジュを見守る。孫娘ソンジュは、昼間は小学校で学童保育の先生として働き、夜はボクシングの練習に励んでいる。自分自身に非常に厳しく、食事制限、トレーニング、また誰に対しても平等であることを自身に課している。減量のためご飯をまったく口にしないソンジュに、せめてパンでも食べてほしいと願うジョンオクだった。ジョンオクのお葬式の日、向かいの葬儀会場で見かけた女の子エリンは、新学期にソンジュのクラスに入ってきた。エリンは母親を亡くし、父親とも遠く離れていたが、叔父と一緒に暮らしていた。小学校に迎えに来るエリンの叔父ドヨンは、手作りのパンやお菓子をエリンと一緒に食べようとソンジュを誘う。少しずつドヨンに心を開くようになるソンジュ。ドヨンと親しくなりながらエリンはいっそうソンジュになつき、同じボクシングジムにヨドンとともに通うようになる。この世にとどまりソンジュを見守っているジョンオクにとって、ドヨンとソンジュの仲が気になるところだが、パンを口にする姿を見て安心する。ジョンオクの生前の善行とは、両親に虐待されていた孫を引き取り育てていた友人が亡くなり、その孫娘ソンジュを引き取ったことだった。この世にとどまる最後の日、ソンジュとエリンのボクシングの試合の日だったが、ソンジュの将来に何の心配もなく、明るくあの世へと旅立った。そんな田舎町での生活を通して繰り広げられる物語は、大きな事件もなく穏やかに幕を閉じる。
●目次
私があなたに会いに行くなら
作家の言葉
推薦の言葉
●日本でのアピールポイント
他者へと心を開いていく過程が丁寧に描かれていて、やさしい気持ちになれる長編小説。今流行りの韓国小説にあるような、ゾンビが登場する恐ろしい場面や、殺人、陰謀などとは縁のない物語なので刺激を求める人には物足りなさもあるだろう。読み進めていくと心穏やかになり、舞台となる田舎町を自転車で走ってみたくなる。韓国らしいところといえば、善行のおかげでこの世にとどまることを許された祖母の目を通して孫娘を見守るところ。おばあちゃん子だった方にはぜひおすすめしたい一冊。数学教師を辞め、アマチュアボクシング選手を経て小説家に、という異色の経歴を持つソル・ジェインの作品は、韓国では二十代から三十代、四十代の女性に多く読まれ、ボクシング場面を扱った作品も多い。まだ日本語訳での出版はないが今後期待される作家である。
(作成:のざわみさを)