アンダー・ザ・ドッグ(언더 더 독)

原題
언더 더 독
著者
ファン・モガ
出版日
2024年9月25日
発行元
ヒョンデムンハク
ISBN
9791167902207
ページ数
164ページ
定価
15,000ウォン
分野
小説

●本書のあらすじ

編集人と非・編集人が存在する未来。編集人とは生まれる前に遺伝子編集が施された人間で、病気の要因が取り除かれ、空気汚染に堪えうる皮膚を持ち、優れた外見と知能、人格をも持ち合わせている。大多数の人間が編集人である世界において、貧困が原因で編集が行われなかった非・編集人は少数派であり、産まれた瞬間から人生の敗者だ。

両親が心中し、編集人でない人間は就職を夢見ることすら叶わない社会に生きる非・編集人のハン・ジョンミンは同じ処遇の人間が集まる「飼育場」へ流れ着き、そこでどん底の人生を終え命を絶つ決意をする。ところがノアと名乗る研究者が現れ「あなたの人生を買わせてください」と提案。これ以上落ちる所もないジョンミンはそれを受け入れる。その研究所では、滅亡していく地球からの避難先であるミニチュア地球に合わせて人間の体を収縮させる技術や、脳だけを取り出して理想の仮想現実を与える技術、人間の脳に機械を操縦させディストピアと化した地球の破滅を救う労働などの研究がされていた。体の収縮に失敗したジョンミンは脳だけの姿となり仮想現実の中で家族を持つが、それが偽物だと気付き全て消去してしまう。

再び生きる気力を失くしたジョンミンは人間としての全ての感覚や感情を退化させ、機械として単純作業だけを行う2度目の人生を過ごす。しかしその度にその仕事への疑問が生まれ、作業からも外されてどん底よりも更に深い闇へと沈んで行く。死ぬこともできないまま全ての感情と感覚を失い暗黒の世界にいたジョンミンだが、最後にノアから「3度目の人生」を与えられ元の世界で目を覚ます。脳の労働による副作用「加速老化」により老人の体になった彼は、数百年にも及ぶと思われたそれまでの時間が実はほんの数か月の間に起こったことだと知る。同時に飼育場の向かい部屋の少年が仮想現実での妻のモデルだったことを知ったジョンミンは、失くしていた感情を取り戻し残りの人生を彼と共に生きようと決意するのだが、その矢先に洪水が起き少年は死んでしまう。その飼育場自体が労働力となる若い非・編集人の脳を集め、要らなくなったら洪水を起こして処理を繰り返すための場所だと気付いたジョンミンは、そこを飛び出す。辿り着いた処理場でかつて共に働いていたロボットたちのスクラップを見付け、花を供えていた彼は、そこで母親に似た老婆と出会う。もしそれが無理心中から逃れた彼の母親ならば、残された時間で彼女の話を聞かせて欲しい・・・・・・そう願いながら、ジョンミンは彼女の隣で眠りにつく。

●目次

1,ダウングレード
2,ダーティー・ワーク
3,アンダー・ザ・ボトム
解説
後書き

●日本でのアピールポイント

最近韓国の女性SF作家が熱い。毎年多くのSF小説が発表されているが、その中でもファン・モガ作家は日本在住の韓国人女性SF作家で、韓国で数々の賞を受賞し、日本では読書会を開いたりするなど、少し変わった経歴の持ち主だ。この作品は2024年に2度目の「SFアワード」受賞後初めの小説となる。『負け犬』という意味を持つ『アンダードッグ』よりも更に下という意味だという『アンダー・ザ・ドッグ』。この作品は人生の『底』にいると思っていた主人公が少しずつ這い上がる姿を描いたSF小説であり、ヒューマンドラマだ。

(作成:繭羽)

ファン・モガ
2019年第4回『韓国科学文学賞』中短編部分大賞受賞 2021年、2024年『SFアワード』受賞 2022年『両性平等文化賞 新鋭女性文化人賞』受賞 日本在住。漫画スタジオで勤務後にIT企業に転職しAI部署で企画開発に携わった。韓国のSF小説を読み小説家を目指して今日に至る。邦訳に『モーメント・アーケード』(2022年CUON/廣岡孝弥訳)がある。