●本書の概略
日本に留学し、就職はしたものの閉塞感を感じながら毎日を過ごしていたウンジュは、10年前に不審な死を遂げた母方の曽祖母の遺言で「敵産家屋」を譲り受け、韓国に帰国することになった。遺言の内容は「ウンジュが30歳になったら1年間だけその屋敷で暮らすこと」。譲り受けたのは1930年代に日本人貿易商「カネモト」が建てた屋敷だった。
1940年代、若き曾祖母パク・ジュニョンは、在宅看護師としてカネモトの一人息子ユタカを看護しながら、ある大きな秘密を知る。ユタカは身体が傷つけられると、未来を予知することができる特殊な能力を持った少年だった。カネモトはユタカの「予言」を自分の事業に利用し、金を儲けるためにユタカを傷つけ、別棟で拷問を加えていたのだ。
一方、現代を生きるウンジュは結婚を控えたパートナーと協力し、敵産家屋でゲストハウスを運営する準備を進めていた。ところが、夜になると不気味な物音や悲鳴が聞こえ、常に誰かの視線を感じる。ある日ウンジュは庭園の池のほとりに佇む少年を目撃し、悪夢に悩まされるようになる。ウンジュにしか見えない「敵産家屋の幽霊」は何を訴えようとしているのか、そして、曾祖母の遺言の秘密とは?
小説家だった曾祖母が書き残した1940年代の出来事と、歴史を経た現代の敵産家屋で過ごすウンジュの周辺で起こる出来事を交差させながら物語は意外な方向に展開する。
●目次
敵産家屋の幽霊
あとがき 客人から幽霊へ(キム・チョンギュル)
作家のことば
●日本でのアピールポイント
韓国で10万部を超えるベストセラーとなり、2024年9月に待望の初邦訳が出版された短編集『カクテル、ラブ、ゾンビ』(カン・バンファ訳・かんき出版)の作者で、ホラー、ファンタジー、SFなどジャンルを超えて活躍する次世代作家として日本でも注目を集めているチョ・イェウンの最新長編。
小説の舞台は、作者があとがきで述べているように、全羅北道群山市新興洞の日本式家屋(広津家屋)を主なモチーフとした「敵産家屋」だ。
「敵産家屋」とは植民地時代に日本人によって建てられた住宅を指す言葉だが、本作品では「敵の財産である家」「敵が住む家」の二つの意味が与えられている。本書での「敵」とは、単純に「日本人」だけを指しているのではなく、1940年代では、息子の身体を傷つけて事業のために息子を利用する「カネモト」であり、現代では、献身的なふりをしてウンジュの殺害を計画するパートナーを指す。私欲のためなら、人の命を顧みない「敵」に対し、時代を超えて、ジニョン(曽祖母)とウンジュ(曾孫)を守る「幽霊」、ユタカの姿が、時には恐ろしく、時には優しく、切なく描かれている。
韓国で「チョ・イェウン・ワールド」と呼ばれる、血の生臭さが漂い、悲鳴が耳に残るような鮮烈な描写と、歴史を経た屋敷の暗く重厚な雰囲気は、読者の想像を刺激する。2024年「読者が選ぶ韓国文学の未来になる若い作家」第3位に選ばれたチョ・イェウン氏の新感覚ホラーとして、一気読み必至の一作。
(作成:中村晶子)