●本書の概略
現代社会においては、個人の自由と他者への配慮が対立する場面が増えている。著者は、こうした社会の摩擦は単なる個人間の問題ではなく、倫理や価値観の再考を迫るものであると指摘する。さらに、SNSやインターネット上での過激な意見対立が社会全体の不安や怒りを増幅させる現状にも目を向け、倫理的な判断や共存のための態度の必要性が増していると説く。
本書は、現代社会における「自由」と「配慮」のバランスを探るための倫理的ガイドブックであり、東洋と西洋、伝統と現代、保守と進歩といった対立する価値観の間で、人類が共存する道を模索してきた倫理学者による新たな提案といえる。高速バスで背もたれを倒し過ぎて起きるトラブルなど日常の些細な問題から、高齢者嫌悪や人種差別、環境問題などの深刻なテーマまで、古代ギリシャのプラトンから現代のマイケル・サンデルに至る思想家たちの知見をもとに、多角的な視点を提供する。
理論の単なる羅列にとどまらず、現実の問題に即した論理的な考え方を提示しているので、「個人主義」を大切にしながらも、他者と調和して生きる「優しい個人主義者」としての生き方を学べる。混迷する時代に希望と指針を与える一冊といえる。
●目次
はじめに 今私たちに必要な最も賢い態度について
1章 自分だけが正しいと言い張る人になるのをやめる
2章 自由なら何でも自分の思い通りにしてもいいと思ったけれど
3章 時には気まずい質問が必要な理由
4章 共に生きるために必要な最小限の態度
●日本でのアピールポイント
個人を大切にして自分の思い通りにすることが大切というのは日韓を含めて共通の価値観だが、それに伴って様々なトラブルや問題が生じるのも同じ状況だ。さまざまな事件・事故のニュースが毎日報道され、SNSなどに激しい批判や非難、誹謗中傷があふれ、賛否の論争も激しくなっているが、事件はすぐ忘れられ、傷や怒りだけが残っていく。そんな現代社会を生きるうえで、古代から現代までの大家の思想が私たちに大きなヒントを与えるという、著者のアプローチ方法は斬新で興味深い。副題にもあるように「共に生きる人生のための最小限の道徳」を身につけて「優しい個人主義者」になることが今の私たちにとって重要だと共感できる。
(作成:伊賀山 直樹)