●本書の概略
約2か月にわたる長い冬休みが終わり、新学期を迎えた3月。小学生の少女は仲が良かったはずの友達になぜかあいさつすることができず、2人の関係はぎくしゃくしてしまう。「相手から先に声をかけてくれたら」と期待する内に時は過ぎ、少女は友達に一通の手紙を書く決心をする。首を長くして返事を待つ彼女の元に届いた手紙には、「先に手紙をくれてありがとう」「私のママがあなたはとっても勇気がある子だって言ってた」と書かれていた。その手紙のやりとりをきっかけに、2人はまた仲の良い友達に戻っていく。
本書は、文学ウェブマガジン『ビユ』に掲載された著者のエッセイを絵本の形にしたいという出版社の提案により誕生した1冊で、絵もすべて著者が手がけている。水彩絵の具を用い、季節の移ろいや少女の心情を躍動感あるタッチで色彩豊かに表現しているので、ページをめくるたび、吹き抜ける風やその温度、次々と芽吹く草花のまぶしさ、少女が一人で歩く雨の日のにおいや音まで伝わってくるようだ。
●日本でのアピールポイント
コロナ禍で人と交流する機会が激減し、親しかったはずの人に連絡しづらくなったり、心の距離ができてしまったという人も多いのではないでしょうか?著者も「長い冬休みのようなコロナ禍の2年を経て誰かに会いたいと思った時、今になって連絡してもいいものかと大きな不安を感じた」と言います(EBSニュース著者インタビューより)。そうやって失いかけた人間関係を取り戻すにはどうしたら良いのか?気まずくなった友達に自ら一歩近づいていく少女の姿は、私たち読者に「時には自分から動かなければ得られないものがある」と気づかせてくれます。
実際に私自身、この絵本との出会いについてある文章を書いたことがきっかけで、懐かしい友人知人から突然メッセージが届いたり、心の距離ができてしまった人たちとの再会が叶ったりする経験をしました。人間関係に悩む子どもたちだけでなく、今を生きる大人たちにも「忘れていた勇気」を思い出させてくれる、そんな1冊です。
(作成:高瀬美菜)