⚫️ 本書の概略
日本でも公開された映画『事故物件 歪んだ家』の原作者であるチョン・ゴヌが描く、ゾンビとの死闘を繰り広げる人々の群像劇である。
不法操業をしていた中国の漁船に出動した海上警察の面々は、無惨な死体と化した船員たちを目撃する。虫の息だったそのうちの一人が中国語で「逃げろ」と言い残して息絶えるが、突然生きかえり襲ってきたことで皆ゾンビとなってしまう。そのうちの一人が海に落ち、ヨンセンド(永生島)へ辿り着く。その頃ヨンセンドでは大学の放送サークルの学生たちを迎える準備に追われていた。到着した学生と島の老人たちとの揉め事がありつつも、村長がなんとか体裁を取り繕うとした矢先、ゾンビが現れ島民たちもそして学生たちも次々とゾンビ化していく。生き残った者たちは助け合い、知恵を出し合いもするが、自分勝手に動く者や裏切る者もいる。最後には島を脱出するためゾンビたちをなぎ倒しながら船着場へ向かうが、苦戦する生き残り一行。そこで突然一人の学生が自ら囮となって皆を逃がす。無事船に乗り込む一行であったが、船の持ち主である男が他の者に運転を任せ走り去ってしまう。島を離れる彼らが最後に見たのはゾンビになった愛する妻と、踊るようにぐるぐる回る男の姿だった。ゆっくりゆっくり、けれどもはやく……。
⚫️ 目次
漂流船
ヨンセンド(永生島)
修羅場
公民館
大脱出
ラストダンス
作者あとがき
⚫️ 日本でのアピールポイント
映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』やドラマ『今、私たちの学校は……』などのヒットでゾンビものがお馴染みとなった韓国エンタメ。今度は小説でその世界観を味わうのはどうだろう。とはいえ作者があとがきでも明かしているように、ただただおぞましいゾンビの姿がメインなわけではない。序盤では島に住む老人とそこにやってきた大学生とが揉めるようすが描かれる。お互い尊重したいのにどうしてもわかりあえない。そんな世代間の気まずさを感じながらもゾンビから生き残るために協力しなければならなくなる。物語ではゾンビだが、巨大地震など天災の火種を持つ日本にとってもこんなふうに一瞬で日常が奪われてしまう可能性はあるし、もう起こってしまっている。そのとき、この小説のあの学生のように死を覚悟で誰かを救いに行けるのだろうか、あの教授のように冷静に穏やかでいられるだろうか、それとも村長のように自分さえ助かれば良いと思ってしまうのだろうか。そんな試されているような怖さも感じてしまった。そして何よりこれは万国共通、次はどうなるのだろう?ハラハラしながらどんどんページをめくる、という読書の醍醐味を味わわせてくれる小説でもある。
(作成:朴哉垠)