●本書の概略
韓紙を使った優しくて温かみのある絵で、「一日の時の流れがもたらす自然の移り変わり」と「分かち合いや感謝の心」の美しさを伝える絵本。目と心を癒してくれる一冊。
●あらすじ
光と闇から4匹のうさぎが生まれました。
名前は[夜明け]、[朝]、[昼]、[夕方]、[真夜中]。
[時]はこの子たちにそれぞれ、深い霧、すがすがしい風、まぶしい太陽、夕焼けを与えました。ところが、[真夜中]には、ただ真っ暗な闇があるだけ。悲しくて涙を流していると、4匹が自分の持っているものを一つずつプレゼントしたので、[真夜中]の世界は美しくなりました。喜んだ[真夜中]が今度は自分の一部を4匹に贈ると、皆には面白い影が生まれたのです。
皆からのおくりものに包まれた[真夜中]は、幸せな夢を見ながら眠りました。
韓国作家をはじめ世界の創作絵本を紹介する「美しい絵本」シリーズ第44巻。
●日本でのアピールポイント
本書の特徴は、まず絵の美しさにある。
表紙の黒い背景に鮮やかなブルーの韓紙と真っ赤な魚のコントラスト、そして、うさぎの瞳に目を奪われる。韓紙の端の羊毛のような毛羽立ちや繊維の風合いを活かして、うさぎの毛、山の稜線や雲などを質感豊かに、色鮮やかに表現している。さらに、蝶や樹皮の模様、落ち葉の一枚一枚まで、作家がどんなに心を込めてこの絵本を描いたのかが伝わってくる細やかさだ。ページをめくるたびに移り変わる光の表情と神秘的な自然、動物たちの愛らしい姿に笑顔とため息がひとりでにこぼれる。大人も画集のように手元に置きたいと思える作品だ。
また、朝、昼、夜のような時間と光の動きは子どもたちにもわかりやすいテーマだ。文字は全体に多くないが、うさぎの気持ち、表紙にも見える幻想的な絵の意味に思いを巡らせながら、ゆっくり何度も読み返したくなる深さがある。何が正しいのかを子どもに教えようというのでなく、ただ美しいということを気づかせてくれる。
うさぎたちは韓国の伝統的な「五方色」で描かれているといい、陰陽五行の思想が背景に潜んでいるようでもあるが、ブラジルでも出版予定というとおり、絵と自然と心の美しさは世界共通で、日本でも受け入れられるだろう。
貼り絵の手法を用いた絵本と言えば、日本では、せなけいこの『おばけのてんぷら』(ポプラ社)を代表とする「めがねうさぎ」シリーズがある。茶目っ気たっぷりで元気なめがねうさぎとは対照的に、本書では表情が繊細で神秘的なうさぎが登場する。
(作成:湯原由美)