さよなら(잘 가)

原題
잘 가
著者
コ・ジョンスン
出版日
 2022年4月22日
発行元
ウンジン・ジュニア
ISBN
9788901259826
ページ数
48ページ
定価
14,000ウォン
分野
絵本

●本書の概略

この世を去った飼い猫に語りかけるかたちで、その猫との日々を通して考えるようになった動物たちのことを描いた絵本。人間によって自由を奪われたまま命を終えた動物たちの話を見開きのページにひとつずつ挙げていき、申し訳なく思う気持ちを込めて、「さよなら、きみたちのことを忘れない」と語りかけている。檻から出た瞬間に銃殺されたピューマ、山火事で焼け死んだコアラ、暑い気候に苦しみながら動物園で生きたホッキョクグマ、閉じ込められた鳥、水槽に閉じ込められたイルカなどが悲しみを帯びた幻想的なタッチで描かれている。
著者は、本書の前にもアニマルライツをテーマとした絵本を2作発表している。本作については、飼い猫がきっかけで人間の世界で虚しく死んでいった動物たちに関心を持つようになり、すべての動物たちが人間に苦しめられることなく自由に生きてほしいという願いを込めて作品を作ったと語っている。
韓国の絵本にしては珍しくカバーがついているが、このカバーは裏返して開くと絵本の一場面がプリントされたポスターになるように作られている。

●日本でのアピールポイント

日本でも年々「アニマルライツ(動物が動物らしく生きる権利)」への関心が高まっていて、動物たちが本来持っている自然環境、家族、自由など奪う動物園や水族館にも疑問の声が出るようになっているので、著者の感じていることに共感できる人々は多いだろう。絵は現実と空想の間のような幻想的な雰囲気で、あまり直接的な表現(残酷な表現など)はされていないので、そういったテーマに関心のある大人の読者はもちろん、こどもと動物の命の扱われ方について話し合うきっかけとしても勧めることのできる絵本ではないかと思う。

(作成:渡辺奈緒子)

コ・ジョンスン
絵本や児童書を数多く発表している作家。作品に、絵本『帰れなかった子どもたち』、『シーソー』、『春の夢』、『わたしは食べます』、『ある年老いたヤギの話』、グラフィックノベル『玉春糖』、自伝的エッセイ『元気だ』、絵本作家になるまでの道のりを綴ったエッセイ『絵本という山』などがある。 動物園の真実を描いた絵本『わたしたちはここにいます、動物園』(2019)、ペットショップで販売される犬の真実を描いた絵本『63日』(2020)の絵を担当するなど、アニマルライツをテーマとした絵本にも継続的に取り組んでいる。 その他にも、死をテーマとした絵本、セウォル号沈没事故や光州事件をテーマとした作品、文在寅元大統領が光州民主化運動37周年の記念式典でおこなった演説を絵本化したノンフィクション絵本、劣悪な環境で働いて命を落とした労働者を描いた絵本など、重いテーマに絵本作家として挑みつづけている。作品はいずれも未邦訳である。