レディー・マクドナルド(레이디 맥도날드)

原題
레이디 맥도날드
著者
ハン・ウニョン
出版日
2022年3月30日
発行元
文学トンネ
ISBN
9788954685733
ページ数
328ページ
定価
14,500ウォン
分野
小説

●本書の概要

いつもトレンチコートを着て、ソウルのマクドナルドで何も注文せず、英字新聞や聖書を読みながら長時間過ごす実在のホームレス女性(故人)。「マクドナルドハルモニ」と呼ばれた彼女の様子は生前、実際のテレビ番組で取り上げられた。生活に困窮しているのにカフェでコーヒーを飲み、取材陣にホテルでの食事を求める様子に、視聴者からは「いい暮らしをしていた過去にとらわれ、現実を直視していない」など非難の声が寄せられた。はたして彼女の人生は非難されるべきものだったのか。彼女をモデルとし、生前の言動を織り交ぜつつ、著者独自の解釈で創作した長編小説。

2017年2月、雪の朝、路上のベンチで座ったまま死亡している女性を清掃員が発見した。キム・ユンジャ、1940年生まれ、住所不明。脳出血、栄養失調、認知症の所見がみられた。所持品の手帳にあった電話番号から、生前ユンジャを取材した番組プロデューサー、シン・ジュンホに連絡が入る。物語は、ユンジャとジュンホの視点を中心に、二人が初めて出会った2016年から彼女の死までの一年間を描く。
ユンジャは有名大学出身で外国語が堪能。安定した職場に通い優雅な生活を送っていたが、自身を溺愛していた母親が亡くなったころから状況が一転。早期退職を促されて職場を辞め、兄たちは海外に移住、妹は結婚して独立、母と住んでいた家も所有者である兄が処分してしまった。一人になり家もなくなったが、衣食住いずれも一流にこだわるユンジャは、古びたマンションで暮らすくらいならとカフェを転々とする生活を始め、2億ウォンあった貯金もやがて底をつく。早朝は教会、日中はカフェ、夕方から明け方までマクドナルドで過ごし、教会関係者が支援してくれる月20万ウォンで、自分なりの美学、信念を貫いて生活する。

番組を見た同級生や元同僚が住居の提供などを申し出てくれたが断り、現金だけ受け取る。先が長くないことを悟ったユンジャは久しぶりに入浴してきれいに死を迎えたいと、その金で、かつて愛用していた高級ホテルの宿泊客専用スパを利用する。その日からしばらくして、路上のベンチで静かに息を引き取った。コートの内ポケットには葬式の足しにしてほしいと50万ウォン入りの袋が縫いつけてあった。ユンジャの死が報道されると多くの人は悲劇的な人生だと考えたが、シン・ジュンホは「彼女は楽観も悲観もしていなかった。ただその日一日を生きていた」と感じた。

●目次

ベンチ/友人たち/レディー/午前五時/女/ニューセンチュリーホール/貞洞マクドナルド/トレンチコート/リリー美容院/ニュースペーパー/提案/タプコル公園/服/老人たち/安国マクドナルド/コーヒー/視聴者掲示板/祈り/光化門スターバックス/ブルーベリーチーズケーキ/ロブスター/本日のスープ/9th Gate/キム・ユンミ/ハングリーボーイ/ご飯/チェ・シニャン/お金/新年/入浴/奇跡/メシア/ミン・スギョン/運/今日

●日本でのアピールポイント

東京のバス停で男に殴られ命を落としたホームレス女性のことは記憶に新しいが、人の生き方や歩んできた人生は他人にはうかがい知ることのできないものだということを改めて感じさせる物語だ。シン・ジュンホから「レディー」と呼ばれていたキム・ユンジャの、みずからの美学と信念を貫いた生き様が印象に残る。
若い頃は「韓国の原節子」と呼ばれていたユンジャが、原節子を追悼する無料映画上映会に通ったり、新聞で大谷翔平の特集記事を見かけたりといったエピソードもあり、日本の読者も親近感を覚えるだろう。

(作成:牧野美加)

ハン・ウニョン
1979年生まれ。2012年、短編「せむしミカエルの日光浴」で文学トンネ新人賞を受賞し文壇デビュー。2015年、長編『嘘』でハンギョレ文学賞を受賞。その他の著書に、短編集『ある長い夏のタヌキ』ほかエッセイ集が4点ある。