いらっしゃいませ、ヒュナム洞書店です(어서 오세요, 휴남동 서점입니다)

原題
어서 오세요, 휴남동 서점입니다
著者
ファン・ボルム
出版日
2022年1月17日
発行元
クレイハウス
ISBN
9791197377143
ページ数
364ページ
定価
15,000ウォン
分野
小説

●本書の概要

2021年の電子書籍出版プロジェクトの当選作20作に選ばれた作品。電子書籍での刊行と同時に、会員数300万人のプラットフォームでトップ10入りするなど好評を博した。読者からの強い要望で紙の書籍でも刊行され、1カ月で4刷を記録した。

ソウルのヒュナム洞という平凡な住宅街にオープンした小さなブックカフェを舞台に、店主ヨンジュと常連客たちとの交流を描く長編小説。

30代後半の女性ヨンジュはオープン当初、空虚な心を抱え、店でぼんやり座って涙をこぼすこともあった。だが、子どものころから好きだった読書をしながら過ごしているうちに、徐々に気力を取り戻していく。客も少しずつ増えてきて、作家のトークイベントや読書会も開くようになった。カフェ業務まで手が回らなくなり、バリスタのアルバイトも雇った。就活がうまくいかず仕事を探していていた男性だ。常連客も個性豊かだ。夫との関係に悩むコーヒー豆販売店の店長、やりたいことや希望を見いだせずにいる男子高校生と彼を心配する母親、非正規社員から正社員への転換をちらつかせるだけの会社に対する怒りと絶望で退職した女性。ヨンジュを含め、悩みや傷を抱える人々が書店に集い、緩やかに交流しているうちに、いつしかそれぞれ再び前を向いて歩きだす力を得ている。

実はオープン当初、ヨンジュは前夫を傷つけてしまったという自責の念に苦しんでいたのだが、共通の友人を通して前夫の今の気持ちを聞いてようやく心の重荷を下ろすことができ、新たな一歩を踏み出す勇気を得る。書店もいつまで続けられるか自信がなかったが、バリスタの男性と常連客の一人に正社員になってもらい、長く愛される町の書店を目指してこれからも続けていこうと決意する。

●日本でのアピールポイント

『かもめ食堂』や『リトル・フォレスト』のような雰囲気の本を書きたかったと著者が述べているように、日常の様子が淡々と描かれ、じんわりとした余韻を残すヒーリング作品だ。読んでいるうちに自分もヒュナム洞書店で登場人物たちと同じ時間を共有しているような気分になる。彼らが悩み、迷いながらも前に進んでいく様子には勇気づけられ、いつの間にか自分の心まで温かくなっている。競争社会や就職難、不安定な雇用、燃え尽き症候群、働き方に対する世代間の認識の違いなど、日本にも共通する問題や現象も描かれており、日本の読者にも共感を得られるだろう。書店でのブックトークや映画上映会の場面では、日本のものを含む実在の小説や映画、ドラマも登場する。長編だが10ページ前後の章(計40)で構成されていて、少しずつ読み進めやすい。

(作成:牧野美加)

ファン・ボルム
大学でコンピューター工学を専攻し、LG電子でソフトウェア開発者として働いた。退職と再就職を繰り返しながらも、ものを書いたり読んだりすることは続けていた。著書に『毎日読みます』『生まれて初めてのキックボクシング』『このくらいの距離がちょうどいい』(いずれもエッセイ)がある。